障害のある子供の兄弟姉妹をさす「きょうだい児」をテーマにした絵本があります。日本図書センターから刊行された「みんなとおなじくできないよ」(湯浅正太作、石井聖岳絵)は、小児科医で「きょうだい児」の作者の実体験に基づいたお話です。
小学生のボクは弟が好きなのに、一緒にいると心がぐちゃぐちゃになります。「こんなふうにおもうボクはダメなこ?」と。
弟を見ていると、ボクは悲しくなるし、ちょっと恥ずかしくもなります。うちの人は弟のことばかりに目を向けるので、ボクは独りぼっちの気持ちになるのです。
ある日、弟は友達に追いかけられジャングルジムに逃げ込みます。とっさに駆け寄ったボクのおなかに、弟はおでこを押し当て、「おにいちゃん みんなとおなじく できないよ」と泣きました。
その夜、ボクは弟のことを全然知らなかったこと、分かってやれなかったことを悔やみます。弟の姿に目をこらし、弟の心に手を当てると、これまで気づかなかった弟の言葉や動きの意味や、知らなかった弟の姿に気づいたのです。心はぐちゃぐちゃのままだけど、弟にこう語りかけるのです。
「おなじくなくていいんだよ」
懸命に生きる弟と、ボクの心の葛藤と変容が、石井さんが描く子供の表情から見てとれます。
弟がいたからこその、ボクの心の成長はうれしいことです。しかし、それらを「きょうだい児」や家族だけの問題としてとどめておいてよいのでしょうか。昨今、問題となっているヤングケアラーの現状も同様です。
弟に向けたボクのまなざしのように、私たちも「きょうだい児」やその家族、ヤングケアラーの姿に目をこらし、その心に手をあて、心を寄せることが当たり前の社会や国になることを願いたいと切に思うのです。
(国立音楽大教授・同付属幼稚園長 林浩子)