【本郷和人の日本史ナナメ読み】古文書、研究と収集㊤ガンプラ転売に思う「倫理」(1/3ページ) - 産経ニュース

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本郷和人の日本史ナナメ読み

古文書、研究と収集㊤ガンプラ転売に思う「倫理」

狩野亨吉肖像=『科学史研究』第6号(昭和18年刊)から
狩野亨吉肖像=『科学史研究』第6号(昭和18年刊)から

最近、転売ヤーなる言葉をよくネットニュースで見かけます。ある商品を人よりも先に購入し、ネットオークションなどを利用して高く売る。それが転売ヤー。商品は利益が出そうなものなら何でも良いわけですが、いまもっぱら注目を集めているのがガンプラ(アニメ「ガンダム」シリーズに登場するモビルスーツのプラモデル)で、マニアの人が正規の手続きで新商品を購入しようとしても、転売ヤーが買い占めるために手に入らない。

転売ヤーは個人なのか、それとも大がかりな組織なのか。そのあたりはブラックボックスらしいのですが、プラモデルを扱う雑誌の編集者がツイッターで転売行為を容認する投稿をしたところ、大炎上。正価の2倍3倍の金額で買わねばならなかったプラモマニアが、文句を言いたくなる気持ちは痛いほど分かります。結果、その編集者はクビになってしまった。でも彼にも不当解雇だ、と訴える権利はあるわけで、この問題も含めてガンプラ転売の話、どうなっていくのでしょうか。

なぜ、こんな話をしたかというと、いまこのコラムで話題にしている古文書にも、似たような話があるのです。古文書も売買の対象となります。能書家、優れた宗教者、著名な武将などの筆跡は茶席の掛け軸として重宝されるらしく、結構な値が付きます。コレクターもいらっしゃる。中国人が買っているという話も聞きます。

平成4年に、山川出版社から『長福寺文書の研究』という本が出版されました。長福寺は京都の梅津というところに所在する、長い歴史をもつ禅宗寺院ですが、その文書は近世に多くが寺外に流出し、ばらけてしまった。明治時代の古文書コレクターが何通かを保有していたり、全国の研究機関にも点在していた。東京大学の日本史学研究室はまとまった量の文書を所蔵しており、それで石井進先生、五味文彦先生の指導のもと、すべての長福寺文書のデータを集め、寺の歴史や文書自体の特質について明らかにする研究会が発足した。その成果をまとめたものが先の本です。

どういう嗅覚が働くのか、史料編纂(へんさん)所の書庫にある『○○氏所蔵文書』の中から「これ長福寺のものでしょ」と見つけてくるのは本郷恵子さん。年次を欠いている文書も含めて、全体の編年を考察したのは村井章介さん。花押(かおう)の人物の比定はぼくが担当しましたし、難解な文字の解読は、みんなでやったのかな。作業は職人芸の領域に入っていった感じでした。前回に言及した「実証、実証」と主張するだけの人など戦力にならない、高度な仕事の結晶。それが、くり返しになりますが『長福寺文書の研究』です。