【紀伊半島豪雨10年】祖父の声に動かされ被災地を支援 大阪の美容師・上垣さん - 産経ニュース

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紀伊半島豪雨10年

祖父の声に動かされ被災地を支援 大阪の美容師・上垣さん

紀伊半島豪雨による増水で失われた露天風呂の水車復活に取り組む上垣隆幸さん(左から2人目)=奈良県十津川村の旅館「湖泉閣吉乃屋」
紀伊半島豪雨による増水で失われた露天風呂の水車復活に取り組む上垣隆幸さん(左から2人目)=奈良県十津川村の旅館「湖泉閣吉乃屋」

紀伊半島豪雨(平成23年9月)の復興支援を地道に続ける男性がいる。大阪府八尾市の美容師、上垣隆幸さん(57)。発生から2週間後、和歌山県新宮市の親類宅に救援物資を届けた帰り。「隆幸、十津川を何とかせえ」。奈良県十津川村から流れてくる熊野川(十津川)の橋で、会ったことのない祖父、清弘さんの「声」を聞いた気がしたのがきっかけだった。

清弘さんは十津川村平谷地区で理髪店を営んでいたが、昭和28年7月に発生した豪雨で犠牲になった。熊野川の向こう岸で孤立した村民を助けようと船を出したが、エンジンが止まって濁流に流されたという。

当時12歳だった上垣さんの母、伊佐子さんから「世話好きで、困っている人を見ると行動せずにはいられなかった」とその人柄を伝えられてきた。

そんな祖父からの「声」に突き動かされるようにこの10年、復興支援を続けてきた。

「十津川村の主要道路は復旧し、温泉旅館も再開したのに、大阪では復旧していないと勘違いしている人が多い」。豪雨災害から3カ月後にそう感じた上垣さんは、「車で3時間♪ 和歌山県・奈良県の温泉に行こう」と呼びかけるチラシを作り、近所の居酒屋に置いてもらう活動を始めた。

最初は一人だったが、次第に支援は広がりをみせた。知り合いの落語家、桂一蝶さんらの協力も得て、平成23年11月に熊野川温泉、24年3月には十津川村の旅館「湖泉閣吉乃屋」で復興寄席を開いた。

25年8月には十津川郷観光大使に任命され、26年からは原木シイタケなど村の特産品生産者と大阪の居酒屋などを結びつける「特産品フェア」を毎年開催してきた。

落語家で上方落語協会理事の桂文也さんはそうした上垣さんの活動を知り、上方落語の定席「天満天神繁昌亭」ロビーでの十津川村観光PR展を提案。昨年1~2月に実現し、十津川村を題材にした落語も上演された。

上垣さんは約30年前から、亡き祖母が住んでいた新宮市熊野川町地区の過疎の集落で出張美容室を開いている。昨年6月、その途中で寄った湖泉閣吉乃屋の露天風呂で「静か過ぎる」と違和感を覚えた。

湖泉閣吉乃屋は清弘さんが住んでいた平谷地区にあり、上垣さんにとっては子供の頃から親しんできた定宿。だが、源泉の流れで回る名物の水車が紀伊半島豪雨で増水した熊野川につかって動かなくなり、撤去されていた。新型コロナウイルスの影響で客足も少なく、聞きなれた水車の回る音がいっそう懐かしく感じられたという。

「老舗の温泉旅館に心地よく聞こえていた水車の音が復活できれば、古くからの常連客の皆さんにも喜んでもらえる」と、4代目館主の植村賢一さん(52)に提案。水車の製作に協力してくれる大工を見つけ、情熱に動かされた会社経営者から出資の申し出もあり、水車は9月6日に完成する予定だ。

「紀伊半島豪雨の被災地は僕のルーツの地。先祖が愛した自然を感じながら、これからも復興を支援していきたい」と話す。(川西健士郎)