JR脱線事故で負傷、アーチェリー岡崎愛子 メダル逃すも堂々と競技

【東京パラリンピック2020】<アーチェリー女子個人(車いす)準々決勝>スタンドの声援に応える岡崎愛子=夢の島公園アーチェリー場(鳥越瑞絵撮影)
【東京パラリンピック2020】<アーチェリー女子個人(車いす)準々決勝>スタンドの声援に応える岡崎愛子=夢の島公園アーチェリー場(鳥越瑞絵撮影)

九死に一生を得た事故から16年。1日、アーチェリー女子個人(車いすW1)に出場した岡崎愛子(35)は、惜しくもメダルには届かなかったが、多くの苦しみや困難を乗り越えて出場した夢の舞台で最後まで堂々と矢を放った。

悪天候の予報により、1日順延されたこの日の決勝トーナメント。1回戦ではチェコの選手を相手に落ち着いた様子で高得点を連発し、勝利。続く準々決勝では優勝候補の中国の選手と対戦。じっくりと狙いを定め、安定して得点を重ねたが、じわじわと点差を付けられて惜敗した。

大学2年だった平成17年4月25日、乗客106人が犠牲になったJR福知山線脱線事故に巻き込まれた。一命はとりとめたものの、首の骨を折る重傷で車いす生活となった。

負傷者で最長となる377日にも及んだ入院生活。体の自由を奪われ「死んだ方がまし」と何度も涙したが「どんな状態でも生きていてほしい」という家族の願いを受け入れ、「できないことを嘆くより、できることを見つけていこう」。徐々に心境が変化した。

退院後は、周囲のサポートも得ながら東京での1人暮らしや就職など、何事にも挑戦。人生を変えたのが、母の勧めで25年から始めたアーチェリーだった。

事故の後遺症で握力はほぼゼロ。それでも滑車などの補助用具が付き、弱い力でも引ける弓「コンパウンド」を使い、試行錯誤を繰り返して腕を磨いた。2019年に初出場した世界選手権で3位となり、東京大会出場を決めた。

新型コロナウイルス禍で大会が1年延期となる中、追い打ちをかけるように大きな悲しみも経験した。

今年2月、ペアを組み、東京大会に内定していた仲喜嗣(よしつぐ)さんが60歳で死去。ショックは大きかったが、彼のユニホームを車いすの下に入れ、「大舞台に強い仲さんをずっと見てきたので、私も堂々とやろう」と試合に臨んだ。

メダルは逃したが「楽しく自分らしいプレーができた」と充実した表情を浮かべた岡崎。今後の競技人生については明言を避けたが「もっと競技人口を増やして、パラアーチェリー界を盛り上げたい」と新たな目標への意気込みを口にした。(小川原咲)

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