アフガンに大使館残す中露 タリバンとの関係強化に交錯する思惑

バイデン米政権が、アフガニスタン駐留米軍の撤収を終えて同国へのプレゼンスを後退させたのに対し、中国やロシア、イランなどは首都カブールに置く大使館の業務を続けている。実権を掌握したイスラム原理主義勢力タリバンとの関係を強化し、それぞれの思惑から新政権発足後をにらんで動きを積極化させている。

8月中旬、中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は、カブールの中国大使館の建物屋上で中国国旗「五星紅旗」がはためいている写真を掲載した。カブールの米大使館に掲げられていた米国旗が降ろされて職員が退避したのと対比させる狙いとみられる。中国の王愚(おう・ぐ)駐アフガン大使は「タリバン側は、中国大使館の安全を保証している」と述べ、タリバンと密接なパイプを築いたことをうかがわせる。

中国は、タリバンを支える構えを強めている。王毅(おう・き)国務委員兼外相は8月29日に行ったブリンケン米国務長官との電話会談で「各国はタリバンと接触を進め、積極的に導く必要がある」との考えを示した。

アフガンが混乱すれば国境接する新疆(しんきょう)ウイグル自治区にも波及することへの警戒に加え、経済的な利益も意識している。中国商務省は2020年の報告書で、アフガンを「金鉱の上に横たわる貧者」と形容した。金、銀、銅や天然ガスなど少なくとも総額1兆ドル(約110兆円)の埋蔵量があるとの米国の試算もある。中国の巨大経済圏構想「一帯一路」では、同国の豊富な鉱物資源開発も視野に入っていると指摘される。

中国にとってアフガンの安定は、経済利益を得ていくうえでも欠かすことができない。一帯一路の関連事業を通じて巨額の資本投下を受けるパキスタンでは、中国人を狙った襲撃事件がたびたび発生。今年4月には同国南西部バルチスタン州の州都クエッタの高級ホテルで爆発が起きて死傷者が出たが、現地を訪問していた中国大使が標的だった可能性が指摘された。タリバンに「一切のテロリスト組織と徹底的に一線を画するように」(王毅氏)としつこく釘を刺している。

一方で中国は、国際社会による新政権の承認を待つなど慎重な姿勢も見せる。中国の外交関係者は「米国が多大なコストをかけても、中途半端な形で撤収に追い込まれたことを中国はよく観察している」と指摘する。アフガンは古くから「帝国の墓場」と呼ばれ、英国や旧ソ連など幾つもの大国が介入を試みたが失敗に終わっており、中国が自ら血を流すような過度の介入を避けようとしていることをうかがわせる。

ロシアもタリバンとの関係を強化する動きを加速させている。ロシアは、米軍撤収後のアフガンで影響力を高めるとともに、タリバンとの敵対を避け、ロシアの「勢力圏」とみなす中央アジアと自国の安全を確保する思惑だ。

ロシアは8月30日、アフガンからの退避を求める人々の安全な出国を保証するようタリバンに求める国連安全保障理事会の決議案の採決で中国とともに棄権。ネベンジャ露国連大使は棄権理由を「専門家の出国が相次げばアフガンの復興に悪影響が出る」とするロシアの懸念が決議案に盛り込まれなかったためだと主張したが、事実上、国民の国外退避を妨害しているタリバンの肩を持った形だ。

8月下旬には露社会学者のシュガレイ氏が「情勢調査」の名目でアフガンを訪れ、タリバン指導部と相次ぎ会談。自身のSNS(会員制交流サイト)に「タリバンは早期にロシアとの関係構築を望んでいる」と書き込んだ。シュガレイ氏はプーチン大統領周辺に近いとされ、露政権の「名代」としてアフガンを訪れた可能性も指摘されている。

ロシアは国際社会の反応も考慮し、現時点では「タリバンによる政権樹立の承認の是非は今後のタリバンの行動次第で判断する」との立場を示している。しかし、欧米諸国が大使館職員らを退避させる中、アフガンの露大使館は業務を続け、タリバンとの協議も実施。プーチン氏が8月下旬、タリバンによるアフガン掌握は当然の成り行きだ-との見方を示すなど、実質的にはロシアは既にタリバン政権を承認している。

ロシアがタリバンに配慮を示す背景には、アフガンへの発言力を拡大して反米陣営に引き込む狙いや、タリバンに国内のイスラム過激派を統御させる思惑があるとみられている。ロシアは過激派が中央アジアに侵入して地域情勢を不安定化させたり、露国内に移動してテロを起こしたりする事態を警戒しているためだ。

(北京 三塚聖平、モスクワ 小野田雄一)