【勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(300)】もう一つの偉業 2000安打「西本さんとバットのおかげ」 - 産経ニュース

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勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(300)

もう一つの偉業 2000安打「西本さんとバットのおかげ」

2000本目の安打が中前適時打となる阪急の福本豊外野手
2000本目の安打が中前適時打となる阪急の福本豊外野手

世界の盗塁王となった福本が、もうひとつの〝偉業〟を成し遂げた。

9月1日、西宮球場でのロッテ戦。四回1死三塁で回ってきた第3打席。バットを叩きつける。打球は快音を発し、ロッテの2番手田村の足元を抜けて前へ。プロ通算2000本安打となった。

「ボクらしいヒットやったね。これでボクもバッティングで認められる。それが一番うれしい。福本というたら、やっぱり〝盗塁〟が表にでるやんか」

5年前のことだ。「名球会」の金田正一から「フク、お前は盗塁の記録で、特別に名球会へ入れたるからな」と言われた。福本は笑いながらこう言った。

「いや、大丈夫です。ちゃんと打って、バットで入りますから」

昭和43年のドラフト7位入団。1年目から1軍に上がり、4月20日の南海戦で五回、泉嘉郎から右翼線へ放った二塁打がプロ初安打。それから15年、こつこつと安打を積み重ねてきた。

2年目のある日、試合前の打撃練習で福本は遊撃方向へ、転がす打球を打っていた。南海のブレイザーコーチが「福本は三遊間にゴロを打てば、内野安打も増えて、もっと打率が上がる」と言っているのを耳にしたからだ。すると、それを見た西本監督が怒鳴った。

「何じゃそのバッティングは。もっと強う振らんかい! なんぼ体が小そうてもツボにきたら一発放り込む、そういう〝怖さ〟のある打者になれ―いうとるやろが!」。この一喝で福本が変わった―といわれている。だが、実際はそんな簡単なものではなかった。

2度目のオールスターに出場した47年、福本はロッテの張本勲から「お前、もっと足を生かして、バントヒットを狙え」とアドバイスされた。そこで、こっそり隠れてバント練習。だが、また西本監督に見つかった。

「アホ、まだそんなことやっとるんか! そんなもんは打撃の技術が一流になってから考え!」

足を使えばもっと簡単にヒットが打てる。何度も〝誘惑〟に負け、そのたびに西本監督に「強く振れ!」と怒鳴られた。2000本安打はその積み重ねなのだ。

「西本さんとこのバットのおかげやね」。フクさんは1060グラムの太くて重い〝ツチノコ〟バットを手に笑った。 (敬称略)