《日本生まれの日本人以上に、日本の精神や伝統を愛し、日本の将来を心配している》
いまの日本の若者たちがチャレンジ精神を失い、安定志向になっている、と聞くと、日本の将来が少し心配になります。
日本は四方を海に囲まれた島国として、長い歴史と独自の伝統、精神を守ってきました。常に大陸からの脅威に晒(さら)されています。こうした状況の中で今後、日本人が生きていくには、よほどがんばらないといけないと思う。大事なことは、覇気や気力を失ったら生き残れないということです。
《実は現在の中国人のなかにも〝横たわり主義〟と呼ぶ消極的な志向が、若者を中心に広がっている、という》
理由については日本と事情が違います。鄧小平(とう・しょうへい)以来の改革開放政策、市場経済の導入で拝金主義が広がりましたが、習近平政権下で「富の格差」も絶望的なほどになりました。そうした社会の格差が固定化してしまい、もはや、がんばってもしようがない、昇進もしたくないといった消極的な人たちが増えてきているのです。
反日感情ですか? これは常にあります。共産党政権による宣伝や学校教育によって、日本に対し、「負」のイメージを持つよう仕向けられるからです。習近平政権になって、その傾向はますます強い。〝南京大虐殺〟のセレモニーを国家行事にしたり、抗日戦争勝利記念日を設定したり、社会全体で「反日イメージ」を固定化しようとしてきているからです。
近年、日本を訪れる中国人観光客が急増しました。現在は、新型コロナウイルス禍によって中断していますが、日本に来て、本当の日本の姿や日本人のホスピタリティーに触れた中国人の多くは「良いイメージ」を持って帰国しました。リピーターも多い。中国人観光客のマナーには確かに問題がありますが、それでも僕は中国人観光客の増加は良かったと思います。
ところが、「何でもやれる」と勘違いしている習近平国家主席は今後、思想統制や自由な言論の排除をさらに強め、中国人の海外旅行を制限することまでやってくるかもしれません。
〝毛沢東以上〟の独裁的、強権的な手法を振りかざす習氏は極めて危ない存在です。「民族の復興」を掲げて中華帝国の復活を目指し、南シナ海、台湾、そして尖閣諸島を狙ってくる。ウイグル人やチベット人ら少数民族の弾圧を強め、民族浄化を進めていく…。
日本人は、こうした「習近平政権の正体」を見極めて、しっかりと対峙(たいじ)しなければなりません。覇気や気力を失ったら一巻の終わり。政治家が中国共産党創建100年に祝電を送っている場合ではないのです。
《来年1月に60歳になる。これからは日本人に日本人の精神を伝える著作をこれまで以上に書きたいと考えている》
僕が司馬遼太郎さんの小説によって日本人の精神を学んだように、次代を担う日本の若者たちに伝えたいのです。形は、小説でも、ノンフィクションでも構わない。帰化人の僕があこがれた日本人の姿を、もっともっと知ってほしいと思います。
「あなたたちの先人はこんなにすごかった」「国を守るために一身をなげうち、懸命にがんばったんだよ」って、ね。(聞き手 喜多由浩)
=明日から台北駐日経済文化代表処代表、謝長廷さん