自民党総裁選(9月17日告示、29日投開票)をめぐり、石破茂元幹事長の動向に関心が高まっている。「次の首相」候補として根強い人気を誇るだけに、出馬に踏み切れば情勢を一変させる可能性があり、立候補を表明している菅義偉(すが・よしひで)首相(党総裁)や岸田文雄前政調会長は警戒感を強めている。また、石破氏とは長年の政敵関係で、党内に強い影響力を持つ安倍晋三前首相の対応も焦点となりそうだ。
石破氏は8月30日、総裁選への対応について「白紙」と記者団をけむに巻きつつ、「世論調査の数字が悪いから(首相を)代えるということは慎むべきだ」と述べ、衆院選を目前に浮足立つ党内を牽制(けんせい)した。
周囲には出馬を促す声もあるが、言質を与えていない。石破氏を支える石破派(水月会、17人)も早期の出馬表明には否定的だ。国会議員の支持基盤がいまだ脆弱(ぜいじゃく)な上、総裁選の構図が流動的なためだ。派中堅は「出るにしても慎重に話し合ってからだ」と語る。
菅陣営は石破氏の動きに神経をとがらせている。昨年の前回総裁選では国会議員の支持が広がらなかった石破氏を退けたものの、国民からの人気は健在だからだ。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)が21、22両日に実施した合同世論調査で、次の首相にふさわしい政治家を尋ねたところ、15・5%を獲得した石破氏は2位。2・5%で7位に沈んだ首相は大差をつけられた。
石破氏が出馬すれば、党員・党友票を獲得するための戦略の再考を迫られかねない。ただ、首相側には「新型コロナウイルス対策で大変な状況の中、石破氏があえて火中の栗を拾うだろうか」(政府関係者)と立候補を疑問視する声もある。
岸田氏は29日、記者団から石破氏について問われると、「私は立候補を表明している。しっかりと思いを訴え続けていく」と述べるにとどめた。石破氏とは石原伸晃元幹事長、中谷元・元防衛相も入れた「四季の会」を結成している。4氏とも昭和32年生まれで、定期的にそれぞれの誕生日を祝う間柄だったが、新型コロナ禍で昨年7月以降は集まることもなくなっている。
石破氏の動きに岸田氏は平静を装うが、陣営は焦りの色を濃くしている。首相との一騎打ちであれば「反・菅票」の上積みが見込めるが、石破氏の参入で分散する恐れがあるためだ。石破氏は地方での知名度が高いことから、頼みの党員・党友票で後れを取る事態も懸念している。
両陣営と同様、石破氏の動向を注視しているのが安倍氏だ。首相再選を支持する構えで、党内の選挙基盤が弱い3回生らが石破氏になびくことを警戒している。
安倍氏に近い議員は石破氏が出馬した場合の対抗措置として「女性初の首相候補として売り出せる高市早苗前総務相を出馬させ、党員・党友票を分散させる考えはありうる」と話す。安倍氏の出身派閥である細田派(清和政策研究会、96人)内では石破氏に勝てる数少ない候補として、安倍氏の出馬待望論も根強い。(奥原慎平)