ビブリオエッセー

夏の終わり、旅に出る友 「たのしいムーミン一家」トーベ・ヤンソン 山室静訳(講談社)

夏の終わり、スナフキンはひとり、旅に出る。秋からやがて来る冬を、好きな場所で過ごすために。ムーミントロールはつらそうだ。

「それで、ずっと帰ってこないの?」

「いや。春のいちばん初めの日には、ぼくはまたここへもどってきて、窓の下で口笛を吹くよ。一年なんか、あっという間さ」

絵本でしか見たことがなかったムーミンの邦訳全集9冊を読み終えた。冒頭のやりとりは第2巻「たのしいムーミン一家」の印象的な場面だ。夏は短い。ムーミン谷の住人は初雪が降ると冬眠の用意をする。暗くて長い冬。著者の国、フィンランドに思いをはせた。

第2巻は冬から始まり、春、夏へと移る。ムーミンとスナフキン、仲良しのスニフは山のてっぺんで黒いシルクハットを見つけた。それは「飛行おに」の帽子で、ムーミン谷は魔法をかけられ、大変なことが起きていく。

たびたび災害や怪物などの脅威にさらされるムーミンたちは力を合わせてこれを乗り越え、怪物たちとも共存する方法を考える。それは厳しい自然を表しているように感じた。

一方、春や夏の場面では自然は恵みや憧れに変わる。鍵のかかっていないムーミン屋敷はいつもにぎやかだ。一家は訪問者をもてなし、それぞれの個性を受け入れる。みんなが哲学を持っていて、語る名言の数々も魅力だ。

月にいた飛行おにはムーミン谷で探しものを見つけると急いで飛んできた。それはルビーの王さま。一家はパンケーキをふるまった。

飛行おにはなんでも願いをかなえてあげると言う。ムーミンママは息子がスナフキンの不在を悲しまないようにと頼み、ムーミンは旅のスナフキンにごちそうを届けてほしいと語った。物語は愛とやさしさにあふれている。

鹿児島県南さつま市 濱田さやか(31)

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