【ザ・インタビュー】荒波に向かう勇気のメニュー 椎名誠さん「漂流者は何を食べていたか」 - 産経ニュース

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ザ・インタビュー

荒波に向かう勇気のメニュー 椎名誠さん「漂流者は何を食べていたか」

今夏は大好きな南米の酒を何十年ぶりかで入手。「がぶがぶ飲んで倒れてしまった」と話す椎名誠さん(酒巻俊介撮影)
今夏は大好きな南米の酒を何十年ぶりかで入手。「がぶがぶ飲んで倒れてしまった」と話す椎名誠さん(酒巻俊介撮影)

集めた漂流関係本は100冊以上。その中から遭難の状況や時代、海域の異なる漂流記をえりすぐり、食に焦点を当てて考察した。「食べるものも、同じでは話として飽きるので違うメニュー」を取りそろえている。大海原を生き抜いた漂流者のメニューは壮絶だ。捕らえたウミガメを解体して生食し、ペンギンの目玉や舌も無駄にしない。

自身も旅と焚火(たきび)キャンプを愛好する冒険作家として知られるが、「僕のは冒険ごっこ、探検ごっこですから遊びの延長」と漂流記との違いを強調する。

「実際の漂流は予想もしない状態で始まってしまう。シャチが襲ってきてヨットが壊れて…何ていうのは予想していない。生きて帰って体験を本にしたのは限られたケースじゃないか。海の藻屑(もくず)になってしまった人がいっぱいいると思うと胸にジーンときます」

本書では、小型ヨットでマッコウクジラと衝突した夫婦や、氷盤の挟撃で帆船を破壊された南極横断探検隊らの予期せぬ漂流のほか、大型のいかだを製作した人類学者による実験漂流も取り上げている。

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「小説新潮」で連載した作品を書籍化。生還した漂流者による記録は、苦悩と絶望が荒波に立ち向かう希望と勇気に変わる物語だと再確認した。「人間の能力の限界まで追求していく。いかにものすごいかということが、それぞれの話に通底している」

中でも、米国人男性が独りライフラフト(救命いかだ)で漂流しながら、いろいろな発明をする『大西洋漂流76日間』はお気に入りだ。「ヨットに乗る人たちのバイブルでもある。読んでいるかいないかは心構えに影響する」。英国人家族が、飲用にできない水を浣腸(かんちょう)することで腸から体に水分を吸収させた逸話も「すさまじい体験」だという。

なぜ食べることに焦点を当てたか。理由は「漂流者のやることは、生きていくための食料を得て食うことしかない。望みもね。それ以外に何かといったら運命論とか宗教論とか人生論とか。どこまで僕が理解し共鳴できるか心もとない」。しかし、世界の海を旅した体験から、食べ物であれば「どんなものが手に入るか何となく分かる」からだ。

漂流記でしばしば貴重な食料となる大型の魚シイラは「南の海へ行くと必ず船に寄ってくる。イルカもよく伴走して案内してくれる。イルカは食べにくいんじゃないですか。大きいですから」。ウミガメが寄ってくるのも体験から分かる。アザラシやウミガメを味わったこともある。

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辺境の砂漠や離島を旅し、多くの小説やエッセー、写真集を発表した。年齢も職業もまちまちの男性集団が旅をする『あやしい探検隊』シリーズを長く続けてきた。

新型コロナウイルス禍のため、今夏は例年のようには出かけられなかった。大好きな南米の酒を何十年ぶりかで入手し、調子よく飲んでいるうちに倒れた。新型コロナに感染していた。高熱が4日間も続き、あまり記憶がないという。

自身の旅の原点は、小学生の頃に読んだ冒険小説『十五少年漂流記』にある。15人の少年が無人島に漂着し、力を合わせて生き抜く児童文学の名作だ。

「この本で僕の読書傾向が決まった。行動の基準も決まったというか、行くなら似たようなところに行くんだと。仲間を誘って、米軍払い下げの重いテントを島へ持っていって、探検ごっこを重ねているうちに本格的になっていきました」

「漂流記マニア」の旅の話は尽きない。

3つのQ

Qどのような冒険が好きか

僕のは冒険でも探検でもない。無謀なる行動です

Q今夏はどのように過ごしたか

新型コロナで2週間、入院しました。本当に死ぬところだったようです

Q次に旅行したいところは

大勢で行くのは、もういいかなと思っている。まだ分かりません

しいな・まこと 昭和19年、東京都生まれ。東京写真大(現・東京工芸大)中退。52年に発表した『さらば国分寺書店のオババ』でデビュー。平成元年、自伝的小説『犬の系譜』で吉川英治文学新人賞。2年、SF長編小説『アド・バード』で日本SF大賞。代表作に『岳物語』など。