【記者発】称賛なき「成果」に心から感謝 社会部・森本充 - 産経ニュース

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称賛なき「成果」に心から感謝 社会部・森本充

東京五輪で警備にあたる警察官。テロ対策だけでなく、酷暑や新型コロナ対策も迫られた(鴨川一也撮影)
東京五輪で警備にあたる警察官。テロ対策だけでなく、酷暑や新型コロナ対策も迫られた(鴨川一也撮影)

東京五輪は日本勢のメダルラッシュで沸き、パラリンピックも熱戦が続く。最近のもっぱらの楽しみは、缶ビール片手に、日本人選手たちの活躍を伝えるダイジェストニュースなどを見ながら、感動にひたることだ。

だが、このささやかな楽しみさえ、許されない人たちがいる。全国から「この日」の警備のため、東京に派遣された警察官らだ。警視庁が警戒態勢を敷いた6月下旬からパラ閉幕の9月初旬まで、外での会食や飲酒は一切禁じられた。緊急事態宣言により都内では再び飲食店での酒類の提供はできなくなったとはいえ、宣言解除の有無にかかわらず禁じられている。派遣部隊の宿舎内でも禁酒措置がとられる徹底ぶりだ。

厳しい暑さが続き、炎天下で警備にあたる警察官は熱中症の危険も伴う中、勤務を終え宿舎に戻っても、冷たいビールで喉を潤すことさえ許されない。「それくらい、いいじゃないか」と思うが、警視庁幹部は「一つの緩みが、士気を下げかねない」と、宿舎内も禁酒にしたとする。しかも、食堂施設がない宿舎もあり、来る日も来る日も栄養源は弁当。おまけに8人の相部屋の場合、新型コロナウイルス感染防止のため黙食と就寝の際のマスク着用が求められている。

考えただけでも「ぞっ」とする生活が、長い隊員で1カ月ほど続くというのに、不満は聞こえてこない。こうしたときの警察官の結束力は強く、全国からの応援部隊に負担を強いている分、自主的に自宅でも禁酒する警視庁幹部は多い。

五輪招致が実を結んでから長きにわたり「成功」のために練り上げてきた警備計画。1年延期という事態に、その成果を見届けられぬまま引退や異動を余儀なくされた警察官もおり、警備に携わることができる「誇り」を感じているという。

警備面ではトラブルというトラブルがなかった五輪。パラも順調に進んでいる。われわれが純粋に楽しめているのは、そうした警察官の自分を律した生活の「おかげ」でもある。警備は何事もなく終わっても、メダリストらのように、世間から称賛されることはない。携わる約6万人の警察官には、心の底から感謝の拍手を送りたい。

【プロフィル】森本充

平成13年入社。警視庁や遊軍、国土交通省を担当し事件事故などを取材。大阪社会部と東京社会部の遊軍長を経て昨年2月から警視庁キャップ。