今、上映中の韓国映画に『モガディシュ』という話題作がある。映画界も新型コロナウイルス禍で苦戦を強いられている中、7月封切りで観客動員約300万人とヒットしている。「モガディシュ」はアフリカ東部ソマリアの首都名。1990年代初めの内戦激化で現地脱出を余儀なくされた韓国大使館員たちの話だが、当時、孤立していた北朝鮮の大使館員を連れて一緒に脱出したという実話が基になっている。
全編アフリカで現地ロケし、激しい戦闘や暴動シーン、決死の脱出作戦など実に面白いアクション映画になっている。それにミソは戦渦の中で韓国側が苦境の北朝鮮を助ける人道的な〝外交美談〟なので韓国人には心地よい。ただ、人気ドラマ『愛の不時着』など近年よくある他の南北モノと違い、北朝鮮への情緒的な〝心の交流〟など対北接近感はない。ひたすら危機脱出に向けた協力という淡々とした北朝鮮観がいい。
それにしてもアフリカを舞台にこんな大がかりな作品を作れる韓国映画は力がある。映画の公開後、アフガニスタンの首都カブール陥落と混乱のニュースが伝わった。その光景は〝モガディシュ脱出〟の映像に重なる。映画はカブール事態の予告編だったか? 国際情勢まで映画の素材に取り込める韓国映画はやはり元気がいい。(黒田勝弘)