カブール陥落は大方の予想以上に急だった。筆者は米出張から帰国後の自主隔離期間中だったので、幸い自宅で多くの報道や記事に目を通せた。巷(ちまた)の関心は米軍撤退時期の是非、取り残された米国人・外国人やアフガン人協力者の悲劇と脱出作戦の成否、さらには米国バイデン政権の責任論に集中している。それが間違いだとは言わないが、こうした議論だけでは、米外交の優先順位が中東からインド太平洋へ移りつつある国際情勢の大局が見えない。
カブール陥落は一体何を意味するのか。今回は久しぶりに外務省研修時代、エジプトで先輩指導官から学んだ国際情勢分析の「三つの同心円」手法を用い、関係国や当事者の細かな言動とは別の次元で動く国際情勢を、戦略的かつ地政学的見地から分析してみる。
同手法では、ある国の外交政策を3つの同心円に因数分解する。その国を中心に、グローバルな国際関係たる第一同心円、その国が属する地域国際関係である第二同心円と、その国内情勢や特定国との2国間関係である第三同心円に分けた上で、これら大中小の同心円それぞれの政治力学的ベクトルを比較分析し、その国をめぐる国際情勢の方向性を探る。具体的にはこうだ。