勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(297)

福本「世界新」 走る気ないのに牽制…怒りで飛び出す

通算939の盗塁の世界新記録を樹立した福本
通算939の盗塁の世界新記録を樹立した福本

■勇者の物語(296)

世界の盗塁王、ルー・ブロック(元カージナルス)が持っていた記録「938個」にあと「1」と迫っていた福本が、6月3日の西武戦で並び、あっさりと抜き去り「939盗塁」の世界新記録を打ち立てた。

◇6月3日 西武球場

阪急 100 200 031=7

西武 110 220 41×=11

(勝)木村1勝 〔敗〕永本4勝4敗 (S)森繁1勝2敗12S

(本)大田⑥⑦(永本)ブーマー⑦(木村)石毛④(永本)⑤(木下)西岡④(木下)田淵⑯(木下)

一回、四球で出塁した福本は、すかさず2番弓岡の3球目に二盗。世界記録に並んだ。そして九回の5打席目、四球で歩いた福本は弓岡の二ゴロで二塁に進んだ。このとき、福本はまったく走る気はなかった。

「試合も負けとったしね。1日1個でええやん―と思ってたんよ」

ところが、西武の二塁手・山崎が三盗を警戒して執(しつ)拗(よう)に二塁ベースに牽(けん)制(せい)に入る。だんだんムカついてきた。

「走る気ないのんが分からんのか? うるさいヤッちゃ。くそっ、ホンマに走ったるぞ…」

打者簑田への4球目。バネが弾けるように飛び出した。悠々セーフ。所沢の夜空に祝福の花火が打ちあがった。

「ボクがお世話になった人、みんなに喜んでもらえると思う。大鉄高―松下電器―阪急…これまでやってこられたのも、チームメートや監督さんたちのおかげです」

大鉄高ではバントの嫌いな網智(さとし)監督に出会い「走ることの楽しさ」を教えられ、松下電器の西岡堆二(たかじ)監督には「松下の広瀬になれ!」といわれ背番号「12」を着けた。そしてプロではその広瀬(南海)に「盗塁のコツ、教えてください」と尋ねに行って「アホ、そんなもん、自分で考え!」と怒鳴られた。

福本はスポーツメーカーの美津濃に年間40足のスパイクを発注する。公式戦3試合ごとに新品を履く計算だ。革は軽いカンガルーの最高級品。足のサイズは25センチ。だが、スパイクは24・5センチ。走りやすいように指を曲げて履く。冬と夏ではミリ単位で大きさを変えていたという。

〝世界の盗塁王〟福本の誕生である。(敬称略)

■勇者の物語(298)