東京パラリンピックの陸上競技に、和歌山県有田市出身の生馬知季(いこまともき)選手(29)=岡山市在住、グロップサンセリテWORLD-AC所属=が出場する。有田市の児童・生徒からは活躍を願う寄せ書きも届けられ、生馬選手は「故郷の応援は心強い。全力走行でメダル獲得を目指したい」と意気込んでいる。
生馬選手は、先天性の障害で幼少のころから車いすを使用。中学校に入学後、登下校時に車いすに向けられる視線に悩み、休日には自宅に引きこもるようになったという。そんな姿をみた両親の勧めで始めた車いすバスケットボールが、障害者スポーツとの本格的な出会いだった。
「本来、黙々と一人で取り組む練習が好き」と生馬選手。「努力の結果がダイレクトに自分に向けられる競技が向いている」と気付き、高校生から陸上競技に転向した。
和歌山県庁の職員に採用された後も競技を継続。帰宅後の夜、有田川の河川敷でライトを灯して練習に励み、技術を磨いた。
さらに競技に集中するため、平成27年、障害者スポーツの支援に力を入れていた岡山市の民間企業「グロップサンセリテグループ」に入社した。
× ×
同社所属で、パラリンピックに前回まで3大会連続出場した車いす陸上選手、松永仁志さん(48)の指導の下、国内外の大会で好成績を挙げるようになった。2017年にロンドンで開催された「世界パラ陸上競技選手権大会」では100メートル(車いす男子T54)で決勝進出を果たした。200メートルでは日本記録も保持している。
今回の東京パラリンピック出場が決まった時の心境を、「『念願の舞台のスタートラインにたてる』という安堵の気持ちが、まず胸に広がった」と振り返る。
車いす陸上では3輪の競技用の車いす「レーサー」を操る。本番に向けて、岡山市内にあるトレーニング場やグラウンドで練習に励み、入念な調整を進めてきた。胸や腕、背中の筋肉を維持するトレーニングは毎日欠かさず実施。持久力を維持するため、得意の100メートル以外に、5千メートルや千メートルを走行する練習にも取り組んできた。
生馬選手は「競技中は常に安定した姿勢を保つ必要があり、屋内でも屋外でも体幹を養う練習に意識して取り組んできた」と自信をみせる。
× ×
本番が迫る中、母校の有田市立糸我小学校、文成中学校の児童・生徒からは、寄せ書きが届けられた。最後まで諦めず走り切ってほしいというメッセージが込められ、子供たちの手形も押されている。
そんな激励に、生馬選手は「背中を押してもらえるような心強さを感じた」と笑顔をみせる。
東京パラリンピックでは、9月1日の100メートルと、3日のユニバーサルリレーに出場する予定。生馬選手は「得意のスタートダッシュで早くレーサーを最速にのせ、メダル獲得を目指したい」と決意を語る。(西家尚彦)