【関西の青果】350年の歴史 京都・賀茂ナスきめ細かな肉質、食べればしっとり柔らかく… - 産経ニュース

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350年の歴史 京都・賀茂ナスきめ細かな肉質、食べればしっとり柔らかく…

賀茂ナスの大きさを測る森田晃司さん=京都市北区の森田農園(写真はいずれも秋山紀浩撮影)
賀茂ナスの大きさを測る森田晃司さん=京都市北区の森田農園(写真はいずれも秋山紀浩撮影)

京野菜の一つで、夏に旬を迎える「賀茂ナス」は通常のナスより大ぶりで丸みのある外見が特徴的だ。350年ほどの歴史を持ち、御所に献上されていたとの説も。肉質がきめ細かくて煮崩れしにくく、煮物や田楽の具材として京の人々に重宝されてきた。栽培にはどの野菜よりも手間がかかるなどデリケートな一面も持つため、高級野菜としても知られている。

「世界遺産」で育まれた味

「肥料と水は普通のナスの2倍は必要。ちょっとでも放置すると、ぷっくり太った実にはならないんですよ」。JR京都駅の北約8キロ、世界遺産・上賀茂神社(京都市北区)近くで賀茂ナスを生産する「森田農園」の森田晃司さん(42)は栽培の難しさを説明する。

賀茂ナスは、遅くとも江戸時代中期に栽培が始まり、その後、上賀茂周辺で盛んに栽培されるようになり、明治時代には地産品として定着したとされる。森田さんの畑がある上賀茂地区は栽培の中心地で、農家14軒で年間約7万個を出荷。今年、森田さんは1100個の出荷を見込む。

直径10~12センチのソフトボールのような形で、重さは500グラムほど。ただ、自然にその形になるわけではなく、3月に苗を植えてから、定期的に肥料を与えたうえで、枝が伸び過ぎて実に栄養がいかなくなるのを防ぐため、こまめな剪定(せんてい)も必要になる。繊細な実の表面は傷付きやすく、病害虫が流行する梅雨期は、細心の注意を払う。

手をかけて育てられ、5月中旬~7月末に収穫を迎えるが、出荷時の品質チェックも厳しく、直径10センチ以上、色艶が優れているなど、いくつもの項目をクリアしないと賀茂ナスとは認められない。通常のナスなら1本の木から50個以上は出荷できるが、賀茂ナスは8個出荷できればよい方という。その分、価格は1個500円以上の高級野菜だ。

「とはいっても普通のナスに比べると利益率は低い。それでも、京都の街中からすぐに送れるので鮮度がピカイチな点は地産野菜のメリットだと思う」と森田さんは話す。

「賀茂なすの麻婆仕立て」。くり抜いた賀茂ナスを器に見立てている=京都市中京区の京都ホテルオークラ
「賀茂なすの麻婆仕立て」。くり抜いた賀茂ナスを器に見立てている=京都市中京区の京都ホテルオークラ
栽培に適した土地柄

「肉質のきめ細かさと適度な硬さ。火を入れても型崩れしないのに、食べるとしっとり柔らかい。通常のナスにはない特徴だ」。賀茂ナスの魅力を語るのは、京都ホテルオークラの中国料理「桃李」の料理長、牧定広(さだひろ)さん(59)だ。

「賀茂なすの麻婆仕立て」を調理する牧定広料理長=京都市中京区の京都ホテルオークラ
「賀茂なすの麻婆仕立て」を調理する牧定広料理長=京都市中京区の京都ホテルオークラ

桃李では平成29年から、夏限定で「賀茂なすの麻婆仕立て」(2~3人前、4235円)を提供する。

賀茂ナスを丸々1個使った一品は、中をくりぬいたナスを器に見立てたダイナミックな仕上がり。ほどよく油を吸い込んだナスに甘みそで風味付けされた牛ミンチが絶妙に絡まり、炒める最後に酢を加えることで、すっきりした口当たりに仕上がる。

牧さん自身も上賀茂在住で、周辺の畑を歩いて回ることも。「上賀茂は、京都の中心地に比べて寒暖差があり、水も豊富な地域。昔の人たちも野菜の栽培に適した場所だと思ったのかもしれない」と話す。

調理法幅広く

主な流通先は飲食店。「京都の家庭の味」との印象も強いが、実が締まっているため、普通のナスに比べて硬いと感じられることなどが理由だという。昨年来の新型コロナウイルス禍で飲食店が打撃を受けており、森田さんの農園でも今シーズン、発注が例年の3分の1ぐらいに減少した。

「一般の消費者には調理が難しいイメージを持たれているかもしれない。素揚げや煮びたしなど、調理方法を知らせていくのも今後の課題だ」と森田さん。

それでも、飲食店や消費者からは「今年の出来はすごくいい」「他のナスには代えられない」と励ましの声が届いており、森田さんはこう力を込める。

「賀茂ナスは京都を代表する野菜。毎年楽しみにしている人もいるし、伝統を途絶えさせるわけにはいかない」(秋山紀浩)

京野菜、欠かせない存在に

賀茂ナスをはじめ京都で昔から親しまれてきた「京野菜」は現在も、料亭はもちろん家庭料理でも欠かせない存在となっている。聖護院ダイコン、九条ネギ、壬生菜(ミブナ)、万願寺トウガラシ、エビイモ…と、その種類も多岐にわたる。

京都府は昭和63年に「京の伝統野菜の定義」を発表し、明治以前に栽培が始まったなどの項目を掲げ、37品目を選んでいる。

また、府と農協などでつくる公益社団法人「京のふるさと産品協会」は、イメージが京都らしく、出荷量が確保され、品質や企画が統一されている産品を「京のブランド産品」に認証。京野菜のほか、「丹後とり貝」「丹後ぐじ(アカアマダイ)」といった水産物や漬物などを含む31品目が選ばれている。