日本の未来を考える

自動車産業 激変に備えを 学習院大教授 伊藤元重

学習院大教授 伊藤元重氏
学習院大教授 伊藤元重氏

欧州連合(EU)は2035年までにガソリン車の新車販売を禁止するとしている。米国は30年までに国内の新車販売の50%以上を電気自動車にするという。ここにはハイブリッド車は入っていない。中国は35年までに全ての新車をハイブリッド車も含めた環境車に移行させるとしている。日本が得意とするガソリン車やハイブリッド車の市場は急速に狭まっている。

自動車における電気化の動きは、産業構造を大きく変えることになるだろう。俗に縦から横への変化といわれるものだ。

旧来の自動車産業は素材から部品、最終組み立てまで各自動車メーカーを頂点とする縦の構造が確立していた。そうした中で、ガソリン車の製造では日本のメーカーは優位な位置にあったが、内燃機関を必要としない電気自動車になると、素材や部品は従来の構造外から供給されるようになるため、この縦の構造が崩れる可能性が高い。電気自動車のキーデバイス(鍵になる機器)はバッテリーやモーターとなり、少し乱暴な言い方だが、これらのキーデバイスを組み込むことで自動車の骨格ができる。それらを制御するソフトウエアの供給元は横に展開することになり得るのだ。

パソコンやスマホを考えれば、イメージしやすい。パソコンで言えばインテルのチップやマイクロソフトのOSが、スマホではクアルコムの設計した半導体とアンドロイドが、キーデバイスあるいはシステムを構築し、これらがあれば世界中の企業が同じような製品を製造することができる。キーデバイスでは市場規模が重要であり、文字通り世界中で横に拡大して競争優位を確保している。無論、自動車でも電気化でパソコンやスマホと同じような横への動きが起きるかは分からないが、すでにバッテリーなどのキーデバイスで世界的な主導権を確保しようとする拡大スピードの競争が起きていることは事実だ。

冒頭で述べた海外政府の動きは、こうした産業構造の変化を加速化するものである。内燃機関で優位にあった日本やドイツとの競争条件を変えたいという狙いがどこまであるかは分からないが、自動車の電気化は多くの企業に成長機会を提供することになる。パソコンやスマホの経験からも分かるように縦から横への変化スピードは非常に速い。米欧中が目指しているようにあと10年ほどで新車の半分以上が電気自動車になるとすれば、バッテリーやソフトウエアなどの成長機会は大きなものとなる。

自動車産業への依存度が大きな日本にとって、こうした変化は由々しき事態である。官民あげて産業構造の転換に対応する必要がある。あくまでも主たるプレーヤーは民間企業だから、産業政策という言葉はあまり安易に使いたくないが、こうした世界的な産業構造の変化に、民間企業だけで対応できるとも思えない。日本でも気候変動問題に対応するためには自動車の電気化を進める必要がある。そうした大きな変化の中で政府は何をすべきか、踏み込んで検討すべきだ。(いとう もとしげ)