拡声器やまぬ原爆忌「厳粛条例」でも程遠い静謐

原爆ドーム周辺で声を上げるデモ隊=8月6日午前、広島市中区の平和記念公園
原爆ドーム周辺で声を上げるデモ隊=8月6日午前、広島市中区の平和記念公園

静かな鎮魂は今年もかなわなかった。米軍による原爆投下から76年の「原爆の日」となった8月6日、広島市中区の平和記念公園では、反戦・反核を叫ぶ団体が平和記念式典もお構いなしに政権への抗議集会を開き、拡声器でシュプレヒコールを上げた。市では今年6月、式典を「厳粛の中で行う」と定めた平和推進基本条例が施行されたが、条例は形骸をさらした。

大音量でスローガン

「菅(すが)は帰れ」「新たな戦争は許さないぞ」

午前6時ごろ、公園内の原爆ドームそば。「ヒロシマの怒りで改憲阻止」と書かれた横断幕の前でマイクを握った男性がスローガンを叫ぶと、周りの人々も大声で後に続いた。

関係者によると、デモの主体となる「8・6ヒロシマ大行動実行委員会」は過激派など複数の団体で構成。参加者が持つ幟(のぼり)には、「動労千葉」や「八尾北労組」など全国各地のさまざまな地名があった。

一方で、「厳粛かつ静謐(せいひつ)な平和記念式典を」と書いたカードを手に、デモ隊と無言で対峙(たいじ)する人たちの姿も。「静かな8月6日を願う広島市民の会(市民の会)」のメンバーらで、サイレントアピールを貫いていた。

デモ隊は「厳粛ファシストは帰れ」などと声を上げ、市民の会側に対抗。さらに、「抗議する右側」を標榜(ひょうぼう)する別グループがデモ隊を批判するなど、公園内は騒然とした雰囲気に。警戒中の広島県警が仲裁に入るシーンも見られた。

さまざまな労働組合の名称が書かれたデモ隊の幟。中には「天皇制粉砕」の文字もあった=8月6日午前8時半、広島市中区(矢田幸己撮影)
さまざまな労働組合の名称が書かれたデモ隊の幟。中には「天皇制粉砕」の文字もあった=8月6日午前8時半、広島市中区(矢田幸己撮影)

さまざまな団体が入り乱れ、それぞれの主張を大音量で繰り返したが、原爆の投下時刻に合わせた同8時15分の黙祷(もくとう)の瞬間だけは静寂に包まれた。

その後、デモ隊は「中国への戦争をやめろ」などと叫びながら元安川を公園沿いに南下。近くの式典会場で菅義偉(よしひで)首相のあいさつが行われていた時間に音量が一段と大きくなり、会場にも声が届いていた。

「人間の鎖」で事実上占拠

毎年繰り返されるこうした光景の一方で、平和推進に関する広島市の役割を明確化する目的で生まれたのが、同市の平和推進基本条例だ。市議会の一部会派が式典とは無関係のデモも念頭に成立を目指し、市民への意見公募や文言の修正を経て今年6月に成立、施行した。条例は式典を「市民等の理解と協力の下に、厳粛の中で行う」と規定している。

左派系の団体は条例案の議論段階から「表現の自由を奪う」として反発を強めていたが、条例にデモを規制する法的な性質はなく、事態は変わらないとする見方が大勢だった。