夏休み明け学校に行けなくなった芸人の少年時代 - 産経ニュース

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夏休み明け学校に行けなくなった芸人の少年時代

お笑い芸人の山田ルイ53世さん
お笑い芸人の山田ルイ53世さん

夏休み明けが近づくにつれ、憂鬱な気分になってしまう児童や生徒は少なくない。「もうすぐ学校が始まる」と考えただけで苦しくなる子供たちがいるのだ。「学校に行きたくない気持ちは怠けでも劣っているのでもない」。夏休み明けに突然学校に行けなくなった経験を持つお笑い芸人「髭(ひげ)男爵」の山田ルイ53世さん(46)は「頑張らなくてもいいし、頑張ってもいい」とメッセージを送る。

6年間の引きこもり

山田さんは「ルネッサーンス!」とワイングラスを掲げる乾杯ネタで人気を得たお笑いコンビ「髭男爵」のツッコミ担当。幼少期から勉強も運動もできる優等生で、難関と知られる兵庫県の私立中学へ進学したが、2年生で学校に行けなくなり、6年間引きこもり生活を送った。

きっかけは2年生の夏、通学中にお腹をくだし、漏らしてしまったこと。ただ、予兆は以前からあった。進学校のハードな勉強や部活動、そして片道2時間の通学。「神経症のようになり、ヘトヘトだった」。部屋をちり一つない状態に整え、体の汚れも全て落とさないと勉強を始められないなど、増え続けたルーチンでがんじがらめだった。

夏休み明けに「宿題が終わっていないから」と学校へ行けなくなった。「それまでの道が思ったところにつながっていなかったと打ちひしがれ、人生が余ってしまった」と感じた。それから6年の引きこもり生活を送った。

転機は20歳の成人式だった。同学年の式の様子をテレビニュースで見て、「後れを取り戻せなくなる」と焦りが募り、大学入学資格検定(大検)を受験。進んだ大学で漫才と出合った。

当時の自分に声をかけるなら、「このままだとシルクハットをかぶった一発屋になるよとだけはいいたい」と笑う。そして「あくまでも自分の場合は」と前置きし、「ひきこもりの6年間は無駄だったけど、人生に無駄な時間があっても構わない」と続けた。

というのも、自身の経験を話せば大抵「あの6年があったから」と意味を持たせようとする世間の強い風潮を感じたからだ。「キラキラしたすてきライフを送る義務はない。そんな型にはまらずとも、ただ生きていて責められない社会であってほしい」との願いが根底にある。

「ただただ、とりあえず今日を暮らしてみる。頑張らなくてもいいし、頑張ってもいい」

コロナ禍の影響も

警察庁などの統計によると、昨年自殺した小中高生は統計のある昭和55年以降最多となる499人。平成28年以降、増加傾向にあったが、昨年は100人の大幅増となった。

原因は、進路に関する悩み▽学業不振▽親子関係の不和-の順で多く、月別でみると、8月と9月だけで全体の4分の1を占めた。

自殺者の急増について、自殺予防策を検討する文部科学省の有識者会議は、新型コロナウイルス感染拡大による家庭や学校の支援機能が低下していると分析する。

在宅勤務が増えた親と家庭内で過ごすなかで衝突したり、学校でも行事が中止になるなど子供を取り巻く環境が激変。居場所を失う子供が増えたことを挙げた。

有識者会議の提言では、自殺予防の対策として、ICT(情報通信技術)の活用を求めており、すでに自治体でストレスチェックを行う専用アプリの導入や、SNSでの相談窓口を設ける動きなどが広がる。

命に関わるSOS
不登校新聞の石井志昂編集長
不登校新聞の石井志昂編集長

ただ、「今年は昨年を上回るペースで増えている」と危機感を募らせるのは20年にわたり、不登校経験者への取材を続ける不登校新聞の石井志昂編集長(39)。「学校へ行きたくないという子供の言葉は命に関わるSOS。どうか見逃さないで」と訴える。

自身も中学時代に不登校となり、「学校に行かなくなって人生が終わると思った」。ただ、フリースクールという学校以外の選択肢があることを知っていて「そこへ行けば大丈夫」とも思えたという。

そこで不登校新聞の編集に関わるようになり、「自分の身を守るため、学校から離れた。踏みとどまり、別の道を選んでここまで来た」。

当時より学校以外の居場所の選択肢や、不登校に関する情報発信は増えたはずだが、「今も学校がつらすぎるのに、休むなんてとんでもないと思っている子がほとんど。子供の世界は思った以上に封建的で、情報が届かない」と感じる。

SOSにどう応えればいいのか。「死ぬなんて考えるな」「頑張れ」と励ますのは、「相談しても理解されない」と思わせ逆効果。石井さんは「子供の声に耳を傾け、つらさを受け止めて」と呼びかけた。(木ノ下めぐみ)