【東京パラ 超える】結ばれているから前に行ける - 産経ニュース

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【東京パラ 超える】結ばれているから前に行ける

競技会で力走する和田伸也選手(左)と伴走者の長谷部匠さん=7月10日、北海道・網走市営陸上競技場
競技会で力走する和田伸也選手(左)と伴走者の長谷部匠さん=7月10日、北海道・網走市営陸上競技場

東京パラリンピック陸上(視覚障害)代表としてロンドン、リオに続く3大会目の出場となる和田伸也(44)=長瀬産業=の13年に渡る競技生活を支えてきたのは、手首に巻かれた1本のロープで結ばれる伴走者たちだ。「お互いの意志があるから前へ行ける」。この夏の大舞台で、伴走を頼む一人、長谷部匠(たくみ)(24)とも信頼関係を築いてきた。

「前が落ちてきています」

令和元年6月、長居陸上競技場(大阪市東住吉区)で開かれた日本パラ陸上選手権。1500メートル競技で千メートル手前まで二番手集団に位置していた和田は横を走る長谷部の声にハッとした。

全盲の和田は前後の選手と10メートル以上離れると、その足音が聞こえなくなる。長谷部の一言で、先頭のランナーをかわした。ゴール前でも「(後続が)来てる。逃げて、逃げて」と声が続き、0・01秒差で競り勝った。当時、長谷部は伴走を始めたばかりだったが、共に闘えると確信した。

「ここで前に行くぞ、という決断をするのは選手の私だけども、長谷部君が判断の支えをしてくれた。彼には勝負勘があった」

白杖を持たなくても

網膜色素変性症により高校時代から徐々に視力が低下し、関西大学3年生の時に視力を完全に失った。点字を習得し、白杖で歩く訓練を繰り返した。

就職して、仕事にも慣れたころの平成18年、視覚障害者のランニングクラブでブラインド陸上と出合った。高校までラグビーに打ち込む運動好きだったにも関わらず、それまで10年近く外を走っていなかった。

「白杖を持たなくても、気持ちよく走れるんだ」

ロープ1本で結ばれた伴走者のおかげで、走る自由を手に入れた。

日々の生活では「精一杯努力して」なるべく人に頼らず生活できるようにしてきた。ただ、競技を続けるには練習から大会本番まで、すべての走行に伴走者の助けを必要とする。これまで共に走ってくれた人の数は100人を超えた。

「アスリートとして、記録を更新する喜びは当然あるが、ブラインドランナーの仲間や、支えてくれる伴走者と達成感を共にできることがうれしくて練習に打ち込んだ」

自己責任という言葉が強調され、他人に頼ることが難しくなっている時代。だが、和田は走るために支えを求め、その支えで得られる喜びに気づいた。

今年7月に行われた競技会で5000メートルを1位でゴールし、ポーズをとる和田伸也選手(中央)と長谷部匠さん(右)=7月10日、北海道・網走市営陸上競技場
今年7月に行われた競技会で5000メートルを1位でゴールし、ポーズをとる和田伸也選手(中央)と長谷部匠さん(右)=7月10日、北海道・網走市営陸上競技場
私にとって尊いもの

市民ランナーの長谷部は31年3月、知人から誘われ、「僕に協力できるなら」と、伴走者になった。和田に肩を持ってもらい、トイレの同行から訓練を始め、以来、練習や合宿で生活を共にし、今年4月からは勤務先の協力もあって週3~4日、練習に付きそう。「僕の目は和田さんの〝目〟になる」と、自分が目にするすべてを言葉で伝える。

知り合って2年半、長谷部は街中で障害者を見ると自然に声をかけられるようになった。「今まで見えていたはずなのに、気づかなかったことに気づけるようになった」

和田は伴走者について「今回、長谷部君が走ってくれるが、2人だけで競技をしているのではない。助けてくれた100人以上の伴走者の代表者のような存在。彼らなしでは、一歩も走れない。私にとって尊いもの」と話す。

選手と伴走者をつなぐロープは「きずな」とも呼ばれる。結ばれた者たちだけが目指せるゴールがある。(藤原由梨)


わだ・しんや

昭和52年、大阪府寝屋川市出身。高校2年生ごろから視力の低下が進む。関西大大学院で修士号取得後、府視覚障害者福祉協会点字図書館などで勤務。28歳の頃からブラインド陸上を始め、ロンドンパラリンピックでは5千メートルで銅メダルを獲得したほか、リオ大会では1500メートル、5千メートル、マラソンで入賞を果たした。現在、5千メートルの世界ランキングは2位。


陸上

視覚障害のうち全盲か重度弱視の選手は伴走者とともに競技に参加できる。競技規則によると、伴走者と走る場合は手か腕をガイドロープ(50センチ以下)でつながなければならない。伴走者が先着すると失格になる。陸上競技は今月27日~9月5日、新国立競技場で各種目が行われ、和田は2人の伴走者とともに男子1500メートル(視覚障害T11)、5千メートル(同)、マラソンの3種目に出場する。

東京パラリンピック企画「超える」

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