我流~社会部発

にじむIOCの貴族感、乏しい有事意識

閉会直前に記者会見するIOCのバッハ会長。保険が利用できたとして「中止は容易な解決策だった」と語った=8月6日、東京都内
閉会直前に記者会見するIOCのバッハ会長。保険が利用できたとして「中止は容易な解決策だった」と語った=8月6日、東京都内

8日に閉幕した東京五輪。新型コロナウイルス禍での五輪完遂は、日本の大きな功績になった。感動と興奮をもたらしたアスリートの姿は今もまぶたに焼き付いている。ただ、国内では感染が急拡大し、痛みも伴った。当初から歓迎ムードに乏しく、開催への理解が求められたが、国際オリンピック委員会(IOC)は単なる祭典ではなく、有事の五輪に臨む危機意識を持っていただろうか。

東京都内に設けられた報道機関の取材拠点「メインプレスセンター」。大会期間中は毎日、IOCや大会組織委員会の定例会見が開かれ、全て出席した。そこで反対派の感情を無用に逆なでするような発言がいくつもあった。

例えば、政府が首都圏3県と大阪府に緊急事態宣言を発令する方針を固めた7月29日、IOCの広報部長は五輪について「パラレルワールド(別の世界)みたいなもの」と述べ、感染拡大との因果関係を全否定した。感染対策の徹底を強調したのだろう。だが、「お祭りムード」の間接的な影響も指摘される中、SF小説に使われる一言で懸念をシャットアウトしたことに反発が集まるのは必至だった。もっと真摯(しんし)に説明を尽くすべきではなかったか。

閉会直前の今月6日にはバッハ会長が登壇。「われわれにとって中止は容易な解決策だった。保険を利用できたからだ」と述べた。覚悟をもって開催したとの趣旨だろうが、保険にまで言及する意図は読めず、日本のためにリスクを負ってあげたとアピールされているようだった。

丁寧な情報発信をしようとする姿勢にも欠けていた。組織委は大会関係者の陽性者を毎日発表したが、原則として国名などは明らかにせず、各国内オリンピック委員会(NOC)が所属する選手の感染を公表すれば、それを追認する方針をとった。多くのNOCが情報を公開したが、いまだにどこの国の選手か不明のケースが複数ある。

行動規範を定めた「プレーブック」違反への対応も同様。NOCが公表するまで、大会参加資格証の剥奪などの制裁を受けた対象者を明らかにせず、具体的な違反行為の説明もされなかった。組織委関係者によると、より詳細な情報を公表できないかIOCなどと協議したこともあったが、「NOCによって考え方が異なり、統一的な基準を定めるのが難しかった」という。

通常の大会であれば、各NOCの意見を尊重するのは当然だろう。だが今回は有事五輪。コロナ対策が確実に実施されていることを明確に示すべく、IOCがリーダーシップを発揮して厳格な公表基準を設けるべきではなかったか。

閉会後には不要不急の外出自粛が要請される中、バッハ会長が東京・銀座を歩く様子が会員制交流サイト(SNS)に拡散された。IOC役員は過剰な接待を受ける「貴族」とも呼ばれる。批判を意に介さない幹部の数々の言動は、それこそ「パラレルワールドの住人」のようだった。(社会部 野々山暢)

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