入院諦める患者、足りない機材… コロナ自宅療養者を診る医療現場

自宅療養者への電話診療に当たる岡本沙織医師。声だけでなく、患者の表情や仕草から症状を把握するためビデオ通話を活用していた=18日午後2時11分、東京都新宿区大久保(竹之内秀介撮影)
自宅療養者への電話診療に当たる岡本沙織医師。声だけでなく、患者の表情や仕草から症状を把握するためビデオ通話を活用していた=18日午後2時11分、東京都新宿区大久保(竹之内秀介撮影)

新型コロナウイルスの流行「第5波」で医療体制の逼迫(ひっぱく)の度合いが増す中、東京都内で自宅療養を余儀なくされる人が増加の一途をたどっている。今月に入り自宅療養者は初の2万人台を突破。自宅で症状が悪化し、適切な医療を受けられずに命を落とす―。そんな最悪の事態が迫りつつある。懸命に自宅療養者の診療に当たる医師らの姿を通じ、医療の現状を探った。(竹之内秀介)

「いま、辛い症状は何ですか」

新宿区大久保の「新宿ヒロクリニック」では18日、午前8時半から自宅療養者に対する電話診療を行っていた。岡本沙織医師(37)がビデオ通話でせきや発熱、食欲の有無を丁寧に聞き取っていく。

「味覚や嗅覚が全く何もないんです。食べても飲んでも気持ち悪くて吐いちゃう」

約1週間前に新型コロナを発症したという50代女性がこう訴えると、岡本医師は「胃に負担がかからない薬を処方しましょう。今日中に届けに伺います」と応じた。電子カルテを手早く入力し終えると次の患者に電話し、この日は午後2時半までに15人対応した。

岡本医師は「医療体制の逼迫具合が知られるようになってきたためか、最近は症状が重い人でも『入院したい』と口にしなくなり始めた」と明かし、「患者さんは苦しいのに自宅でよく堪えてくれている。こちらも全力でサポートしたい」と力を込めた。

都内の自宅療養者は19日時点で2万4172人。7月1日時点と比べて20倍以上に膨れ上がった。国の指針では自宅療養の対象は軽症者や無症状者だが、病床不足の深刻化に伴い、症状が重い中等症の患者でさえも入院できなくなっているのが実情だ。同クリニックでは区保健所から依頼を受け、毎日20人前後の自宅療養者の電話診療を行っている。診療の中で血中の酸素濃度「酸素飽和度」が低下するなど重症化の兆候が確認された場合、往診チームが患者宅へ赴き、採血などをして症状を詳しく調べるという流れだ。

「酸素検討、1人出ました」

午後1時半過ぎ、男性看護師が声を張り上げると、クリニックに緊張感が漂った。自宅療養中の30代男性の酸素飽和度が一時84%まで悪化し、自力での呼吸が難しくなったため、これから往診に向かうという。酸素飽和度は90%を切ると十分な酸素が体に入っていない「呼吸不全」の状態とされる。男性看護師が酸素を吸入するための「酸素濃縮器」を手に取ると、英裕雄(はなぶさ・ひろお)院長(60)が〝待った〟をかけた。「もう濃縮器はなかなか入ってこないから、できれば酸素ボンベで対応できないかな」。クリニックではこれまで酸素濃縮器を約30台用意してきたが自宅療養者の症状悪化が相次ぎ、この時点で残すところ4台まで減っていた。

電気さえあれば時間制限なく酸素を供給できる酸素濃縮器と違い、酸素ボンベは中身を使い切れば再補充するまで使用できない。利便性は酸素濃縮器の方が高いが、緊急性が高い患者が出た場合、対応できなくなってしまう。検討の末、30代男性は酸素ボンベで経過を観察し、症状が改善しなければ酸素濃縮器に切り替える方針が決まった。

英院長は「本当にギリギリのところでやりくりしている。これ以上感染状況が悪化すれば、現場は耐えきれない」と漏らした。本来、酸素吸入が必要になるほど症状が悪化した患者を自宅で止めておくのは「あってはならない事態」と英院長。「自宅療養者の体調の急変を完全に察知するのは難しい。重症化リスクの高い患者だけでも入院できる救護所のような存在を自治体が早急に整備すべきではないか」と訴えた。