農業と福祉を組み合わせた「農福連携」で、高価な胡蝶蘭に着目し知的障害者らの経済的自立を支援する動きが福祉事業所から企業へと広がりを見せている。採用することで障害者雇用率が上がるうえ、SDGs(持続可能な開発目標)に積極的に取り組む企業として投資家などの評価を高め、ブランドイメージも向上するからだ。一方で、障害者の自立に十分に結びついていない現状もある。
千葉県我孫子市郊外の温室に純白の花がずらりと並ぶ。帝人が障害者雇用を促進するために設立した特例子会社、帝人ソレイユが運営する農園「ポレポレファーム」で働く障害者が作業分担しながら丹精込めて育てた胡蝶蘭だ。
見栄えをよくするため花の方向を整える「仕立て」という作業を任されているのは、昨年4月入社の廉谷貞治氏。1鉢に3本の花を寄せ植えする3本立てを仕上げるのに1年前は2時間超かかっていたが、今では1時間を切る。丁寧で仕事も早いことが認められ「最高技術者」として5本立てに挑戦する。
資材製作担当の黒木貫智氏は重度の知的障害がありながら器用で力加減が分かり、集中力と持久力がある。仕事場では反復作業を黙々とこなす。
統括マネージャーを務める鈴木崇之取締役は「性格などから得意分野を見極めて、適材適所で仕事を任せる。メンバーの技術は確実にレベルアップしている」と話す。
ポレポレで胡蝶蘭栽培を始めたのは令和2年4月。栽培が軌道に乗るにつれ帝人内で認知度が向上。秘書室は贈答用に購入していた胡蝶蘭を全てポレポレで栽培したものに切り替えたほか、各事業・部署からの注文も増加した。障害者の雇用が増えただけでなく、贈答用胡蝶蘭を自社栽培することで経費も削減できた。
6年度には年間4000~5000鉢(3本立て換算)を栽培する計画で、企業の贈答用市場をターゲットに売り上げ1億5000万円を目指す。7年度には取引先企業を500社に増やし、営業黒字化を視野に入れる。そのためにポレポレ産のブランド化を図るとともに、帝人の鈴木純社長らによるトップセールスで顧客開拓を進める。