【DX大解剖】“DX“で変えるのは“思考” クリエイティビティーを守る仕組みも必要 - 産経ニュース

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DX大解剖

“DX“で変えるのは“思考” クリエイティビティーを守る仕組みも必要

日本には課題が多い。中でも、世界最速で進む高齢化や人口減少下で経済社会をどう維持発展させていくのかは最重要課題の一つといえる。一方で、その対策としても積極的な取り組みが求められるグローバル化やデジタル化には遅れが目立つ。デジタル化の遅れは日本企業の国際競争力を低下させ、ひいては日本経済の活力にも深刻な影響を及ぼしかねない。この難局を乗り切るためにも、日本の企業や社会をデジタル技術で抜本的に改革する「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が必要だ。DXはまさに日本を未来につなぐためのカギなのだ。とはいえ、これがなかなか進まない。歴史や伝統、独特の風土・文化も日本のDXを複雑で困難なものにしている。ではどうするのか。長い歴史を有するKADOKAWAグループは、2019年4月にDX推進のためのグループ会社、KADOKAWA Connected(東京都千代田区)を設立し、改革を本格化させた。それから3年。改革の最前線を率いるKADOKAWA Connectedの各務茂雄(かがみ・しげお)社長に、DXの神髄や展望、課題などを聞いた。(青山博美)

求められるデジタル思考とアナログ思考のバランス

――DXを実現しないと企業も社会も生き残れないかも知れませんね。そうしたことは総論としては理解もされています。しかし、そもそもDXの本質というか、DXとは何か、という根本的な部分があまりよく理解されていないように思います。例えば、DXを会社以外のいろんな場所で、それぞれがパソコンで仕事をすること、など思われている話もまだ耳にします

「そういう意味でいえば、DXといっても領域は広いのです。デジタル技術を使って新しいビジネスを起こすのも、デジタル技術を使って働き方改革をしていくのも、両方ともDXです。あと、よくデジタル思考とかアナログ思考とかいいますよね。デジタル思考は1か0かみたいに明確に分解していきます。それに対してアナログ思考は、あいまいな状態のまま暗黙知として活用されているものと言えます。そして、知恵という経営資源は暗黙知の中に存在しているため、このデジタル思考でアナログの価値を最大化することが、DXの神髄だろうと思います」

――KADOKAWAグループの場合、歴史もありコンテンツの制作などを手掛ける部門もあります。アナログ思考から生まれる価値はひときわ豪勢な感じがしますね

「アナログ思考も2つに分かれます。1つは“クリエイティビティ―“に関係する部分です。出版や映像に携わるクリエーターがもっているアイデアとか想像力とか、そういった部分については、それらをデジタル技術の活用でどう支えていくのかが課題となります。表現をデジタル技術で可視化することにより、これまでとは違った“なにか”を生み出す、というのもあります」

「もう1つは属人化されてしまった仕事や仕組み。これはどこの会社にもありますよね。例えば、昔は解決すべき課題があって仕組み化したけれど、次第に属人化しており、何のためにやるかの目的は不明なのに、前例として作業だけが残っていることなどあるのではないでしょうか」

――その件は○×さんに聞かないと誰もわからない、みたいなやつですね

「はい、そうです。それらは、仕事の流れを可視化して、デジタル思考で解決すべき課題と目的を明確にして、作業をデジタルツールに置き換えることで効率化を図ることができます。ただ、実際には効率化できる部分と、クリエイティビティーに関係する部分は混在しています。そこでまずわれわれは、クリエイティビティーをどう支えるかよりも、陳腐化した仕組みや属人的な仕事を“最新型に変える”という部分に集中してきました。ただ、最新型に変えるのも結構大変です。いままでの仕事の進め方って、誰にとってもそんなに簡単には変えられないものですからね」

カギ握るリーダーシップと投資

――そこをなんとか変えるためにはアクションが必要だ、と

「KADOKAWAグループの場合は経営トップの強力なリーダーシップで、『こうしていきたい!』という方向性が示されていました。その経営の意思をふまえて、われわれは“どのように”という部分に集中してきました。リモートワークやこれに伴うオンラインツールの活用は、コロナ禍の前から準備してきたこともあり、昨年の緊急事態宣言の際もスムーズに移行できました。こうしたツールや仕組みを最新型に変革するとともに、埼玉・所沢に新設した日本最大級のポップカルチャー発信拠点であり、ミュージアムをはじめ、イベント・ホテル・レストラン・書店・オフィス・神社など、あらゆる文化をひとつにした大型文化複合施設『ところざわサクラタウン』には、はじめから最新型のICTのインフラシステムを実装しました」

「次の段階としては、出版のSPA(製造小売)化みたいなことも考えたい。その中で、KADOKAWAはバリューチェーンのどこを手掛けたらいいのか、といったことを追求したいと思います。と同時に、デジタル技術でクリエーターをどう支えていくのか、についても本格的に取り組みたいですね」

――KADOKAWAグループは早い段階からデジタル化に向けた取り組みを続けてきた印象があります。しかし、出版社に限らず日本企業の多くは変革となるとどうにも腰が重いという面もあります。ところが、今回の動きはコロナ禍もありますが、たいへんスピーディーだと感じます

「ありがとうございます。ただ、真のDXという意味ではこれからが本番です。デジタル思考とデジタル技術の活用で企業価値を高めるためには“知恵“や”ノウハウ”などの暗黙知の可視化と共有をより進める必要があると考えています。日本では、自分が知ってる情報や知恵を他人に共有したり教えあう文化が少ないように思えます。それよりも、みんなで知識や情報が共有できれば大きな力になるし、そういう文化を醸成するために、評価制度も変えていくことが求められると考えています。」

――知識や情報の発信、共有は、成果の出るプロセスの共有につながりますね

「そうなると、共有された情報などの形式知をもとに、誰がビジネスを創出できるスキルを持っているのかなども見えてきます。知ってるだけではだめで、可視化して共有して、価値を最大化する力を重視すれば、評価も明確になってきます。このあたりは多くの日本企業が苦手な部分だと思います」

“見えない資産”と“よい打ち手”で伸ばす

――クリエーターの評価はどうでしょう

「クリエーターの発想やアイデアはしっかり守っていく必要があります。そのためには、形式知化するものと、しないものを決めればいいわけです。その見極めは難しいところですが、例えば編集部門でも、形式知として扱わないほうがいいクリエイティビティ―で勝負する人や仕事があります。その半面、スケジュール管理やルーチンワークなど形式化したほうがいいが重要な仕事もありますからね」

――そういう意味では、形式知として共有することで効率化できる部分は徹底的に効率化し、浮いた時間やマンパワー、資金を次世代の成長分野に投じていく、という本来の目的を忘れないようにしないといけませんね

「個人の頭の中にあるものや古い慣習などの中にある暗黙知のようなものを形式知化していくことは、自分たちの本質を知ることにもつながります」

――それ、大事ですね。自分たちのビジネスモデルや顧客が自分たちに何を求めているのかを理解していないことが多いように思います

「突き詰めていくと、“アナログ的なもの“”見えない資産“が企業の大きな価値であった、ということがよくあります。それを理解し、アナログの価値を活かしていく必要があります。となれば、もともとの“打ち手“がいいのかどうなのか、をよく検証しないといけません。価値ある“見えない資産“と、よい“打ち手”があれば、それをデジタル技術で最大限伸ばしていけます。ただ、それを進める過程では反対意見や抵抗にあうこともあります」

「反対する人には大きく2通りあります。1つはもともとの“打ち手“や仕組みを作った人たち。そしてもう1つは“変化を嫌ってただただ反対“する人たちです。このうち、もともとの“打ち手”を作った人たちは、きちんと繰り返し説明することで理解が得られます。そういう人は、のちのち強い味方になってくれます。改革を進める上では、そういうところにも注意し、どう変えるのか、なぜ変えるのか、を粘り強く説き続けるといいのではないでしょうか」