【シンガポール=森浩】イスラム原理主義勢力タリバンが実権を握ったアフガニスタンで、国外退避を目指す市民が後を絶たない。タリバンは首都カブールの国際空港前に検問所を設け、空港に入ろうとする市民を発砲で追い返している。タリバン幹部は「すべての人を恩赦した」と融和姿勢を打ち出したが、実際の行動とは乖離(かいり)が見える。
「かつてのタリバン政権の恐怖が鮮明な40代以上だけではなく、不安を募らせた若者が毎日押し寄せている」。空港近くに住む住民は、産経新聞通信員の取材にこう答えた。
カブール国際空港はタリバンが全土制圧を宣言した15日以降、国外脱出を目指す市民が詰めかけて混乱に陥った。空港では、しがみついた航空機から落下するなどして、19日までに少なくとも12人が死亡。それでも各国が退避支援のために飛ばす軍用機になんとか搭乗しようと空港を目指す市民は絶えない。
タリバンは空港に至る道に検問所を設置し、市民を発砲で追い返しており、負傷者も出たもようだ。パスポートや査証(ビザ)などがそろっていてもタリバン構成員が空港入場を拒むケースが相次ぎ、混乱に拍車を掛けている。
タリバンは19日には空港前に集まった市民に対し「誰も傷つけたくない」として自宅に帰るよう呼び掛けた。その場に留まれば武力での強制排除を辞さない可能性を示した形だ。
ロイター通信によると、空港からは既に8千人の外交官らが退避したが、各国大使館で勤務していたアフガン人らについては対応が遅れている。シャーマン米国務副長官は記者会見で、タリバンに空港への移動の妨害をやめるように訴えたが、実現は不明だ。
カブール市内ではタリバン構成員による各住居の訪問が始まった。構成員らは「政府が所持する自動車の台数を調べている」などと説明しているが、動揺が広がっている。カブール東部に住むサルダワリ・カーン氏は「市民は次に何が起こるか不安でたまらない。何としても国外に逃げたいと思う人は減らないだろう」と述べた。