ホタルが棲み続ける里山環境再生へ 鹿島が進めるグリーンインフラ活用 脱炭素に積極貢献

気候変動リスクや感染症対策、海洋ゴミなど地球規模の課題が社会や暮らしに大きな影響をもたらすなか、企業の自然共生の取り組みが変化している。国内外でSDGs(持続可能な開発目標)達成への機運が高まり、環境保護にとどまらず、脱炭素社会への貢献など社会課題の解決につなげる動きが加速。建設大手の鹿島も業界に先駆けて宣言した「鹿島環境ビジョン:トリプルZero2050」に基づき、脱炭素・資源循環・自然共生に取り組む。2030年のSDGs達成、2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガス実質排出ゼロ)実現に向け積極的な研究開発が進行している。自然と向き合い、社会基盤を確立してきた技術やノウハウを生かし、生物多様性を育み、防災・減災も担う「グリーンインフラ」の構築・活用につなげられるか。ホタルの生息するビオトープづくりが切り開く新たな展開を探った。

水、土壌、緑のすべてそろうビオトープ

夕闇の森に小さな光が一つ、また一つと飛び交い美しい軌跡を描く。鹿島技術研究所の越川義功主席研究員は、熊本県公共関与産業廃棄物管理型最終処分場「エコアくまもと」のビオトープで観賞したホタルの姿が忘れられない。「チラチラと飛ぶ光景を想像していたが、たくさんの光が明るく、素早く飛び交っていて鳥肌が立った」

15年に竣工したエコアくまもとのある南関町は県北西部に位置し、名水の里ともいわれる自然豊かな地域。ゲンジボタルの生息地として知られ、例年5月下旬ごろは町内の各所で飛ぶ姿が観察される。しかし、近年は生態系の変化や、16年の熊本地震、昨年7月の豪雨など災害が重なって減少傾向が顕著だったという。

エコアくまもとのある南関町に生息するゲンジボタルの成虫
エコアくまもとのある南関町に生息するゲンジボタルの成虫

着工前のエコアくまもと周辺も、「耕作放棄地が広がり、イノシシなどの獣害も深刻だった。貯水機能も持つ、水田のような湿地環境が減少し、この地域の谷津田が作り出す里山環境が維持できなくなる懸念をもった」(越川氏)。このため施工を担当した鹿島が自然共生を目指してスタートしたのが、ホタルを呼び戻す活動だ。

ホタルは水辺のコケに卵を産み、幼虫として9カ月程度を水中で、土の中でさなぎになって約50日間を過ごし、林で羽化して成虫となる。大野貴子主任研究員は「水、土壌、緑の全ての環境がそろわないと生息できない里山環境を象徴する生き物。ホタルが棲みやすい環境を作ることは、日本固有の豊かな自然の保全につながる」と説明する。

鹿島技術研究所の越川義功主席研究員(左)と大野貴子主任研究員
鹿島技術研究所の越川義功主席研究員(左)と大野貴子主任研究員

エコアくまもとでは敷地内にあったため池を利用し、運営を担う(公財)熊本県環境整備事業団とともに地域の生態系を構成する里山環境の要素を取り入れたビオトープを構築。建設地への環境調査などで培ったノウハウや現場の実証実験で得られるデータを生かして、ホタルの棲みやすい水辺、土壌、植生環境を作り上げた。

竣工後5年経過した「エコアくまもと」のビオトープ
竣工後5年経過した「エコアくまもと」のビオトープ

背景には鹿島グループが定めた7つの重要課題への取組がある。生態系など自然の機能を評価・予測する技術が進展し、都市計画や土地利用にグリーンインフラを取り入れる動きが広がるなか、鹿島は今年3月にSDGs達成に向けた重要課題を改定し、その一つとして「脱炭素社会移行への積極的な貢献」を強調。カーボンニュートラルや防災・減災の土台となる里山環境の再生にも取り組んでいる。これは、SDGsの観点からいえば、“経済圏“、”社会圏“を下支えする“生物圏”をいかに作り上げるかといった難解なパズルの重要な構成要素の一つ。越川氏は「ダム造成など環境に配慮した建設プロジェクトを通じ、多くのビオトープを構築してきた。生物圏の形成につながる経験やノウハウを生かしたい」と話す。豊かな里山環境の象徴であり古くから人々に親しまれてきたホタルは、生物圏形成の目安となる。

ホタル幼虫の飼育システムや調査手法を開発

このため鹿島はビオトープ構築技術に加え、ホタルの幼虫の独自飼育システムや調査法も開発することで、「棲み続けることができる環境」をサポートしている。

生息できる環境を作り上げても、餌となる巻貝のカワニナはもちろん、ホタルが周辺の生息地から飛んでくる環境がなければ、棲みついてはくれない。そのため建設初期には、ホタルやカワニナの放流が必要となるが、日本国内でもホタルは遺伝的に7系統にわかれているため、その地域固有の系統を放流しなければ、環境破壊につながる恐れもある。

このような問題を解決するために、地域固有の幼虫とカワニナを最低限活用して、効率的に飼育するシステムを開発した。エコアくまもとではこのシステムを活用して、カワニナの数を10倍に増殖して放流し、5年経過した現在も順調に生息している。また、町内の小学校にも貸し出し、授業の一環でホタルの幼虫を飼育し、周辺生息地への定期的な放流も行われている。

鹿島は地元小学校の授業の一環として飼育したホタルの幼虫を放流する活動に取り組んでいる
鹿島は地元小学校の授業の一環として飼育したホタルの幼虫を放流する活動に取り組んでいる

また、ホタルの棲みやすい環境を維持していくため、生息調査は欠かすことができないが、ホタルの幼虫は体長0.5~2.5センチ程度と小さく、水中の草の根元など見つけにくい場所にいるため、正確な調査が難しい。そこで、生息地の水から生物の放出したDNAを採取し調べる最先端の技術を活用し、水中の幼虫の状況を把握できる手法も開発した。これにより、今まで見えなかった幼虫の生息状況を「見える化」し、より最適な生息環境の整備に生かしている。

鹿島によると、ビオトープ構築後、ゲンジボタルの飛翔(ひしょう)を継続的に確認できているうえ、希少種のウチヤンマ、コガタノゲンゴロウなども飛来。周辺地域の生態系の基盤として機能し始めているという。大野氏は「ホタルの観察会を開かなくても、飛んでくる姿を見られる里山環境をつくることでSDGsに貢献するとともに、少しでも子供たちに日本の自然の素晴らしさを伝えることができるとうれしい」と前を向いた。

提供:鹿島建設株式会社