勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(291)

ミラクルショット 青木が米ツアーV、トラも大歓声

18番で第3打をカップインさせ、逆転優勝を喜ぶ青木功
18番で第3打をカップインさせ、逆転優勝を喜ぶ青木功

■勇者の物語(290)

昭和58年2月、トラ番記者4年目の筆者は、タイガースの春季キャンプ取材のためハワイ・マウイ島に来ていた。その日のことは忘れない。

現地時間2月13日、選手の誰もが朝から気もそぞろで練習に身が入らない。

ハワイ・オアフ島のワイアラエCC(6289メートル、パー72)で行われている米ゴルフツアー「ハワイアンオープン」に出場している青木功が優勝争いを演じ、この日が決勝ラウンド。みな、結果が気になって仕方がなかったのだ。そこへ所用で宿舎に帰っていた杉田トレーナーが球場に戻ってきた。

「勝ったで! 青木が逆転優勝や! ミラクルショットや!」

練習そっちのけ。安藤監督以下ほとんどの選手がトレーナーを取り囲んだ。

「ミラクルショット?」「イーグルや。18番で第3打が直接カップに入った。それで逆転優勝したんや」「オオッ」。グラウンドに大歓声が響いた。

青木のミラクルショットを再現してみよう。

最終組の青木は18番(パー5)のティーショットを右ラフに入れた。前の組では18アンダーで並んでいたジャック・レナー(米国)が2オンに成功。イーグルパットは外したが楽々バーディーを奪い、19アンダーでホールアウトしていた。

「よし、第2打をグリーン手前まで運べば寄せワンでバーディーが取れる」

青木は3番ウッドで攻めた。だが、力んだショットは左に切れてギャラリーの中へ飛び込んだ。ここで最初の〝奇跡〟が起こった。ギャラリーに当たったボールがなんと、ラフに戻ってきたのだ。

「ツキが残っている」。第3打は残り117メートル(128ヤード)。クラブはピッチングウエッジ。高~く上がったボールはピンに向かっていく。「乗ってくれと祈った」。ボールはカップ手前1メートルのところに落ちて弾んだ。再び〝奇跡〟が…。

グリーンを取り囲んでいたギャラリーから「ウオオゥ」という大歓声が起こる。弾んだボールがそのままカップに吸い込まれたのである。

「勝ったというより、入っちゃったって感じ。最後は女神が助けてくれた」

日本勢男子で初の米ツアー優勝。悲願達成に青木は両手で顔を覆った。(敬称略)

■勇者の物語(292)