【関西の青果】料理、ラテ、入浴剤にも 生薬だけじゃない大和当帰の可能性 - 産経ニュース

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関西の青果

料理、ラテ、入浴剤にも 生薬だけじゃない大和当帰の可能性

山間部の農園で大和当帰葉を栽培する益田吉仁さん(左)。料理人の中谷曉人さんが直接買い付けにやってくる=奈良県下市町(前川純一郎撮影)
山間部の農園で大和当帰葉を栽培する益田吉仁さん(左)。料理人の中谷曉人さんが直接買い付けにやってくる=奈良県下市町(前川純一郎撮影)

漢方薬の原料として、奈良県で古くから栽培されてきた大和(やまと)当帰(とうき)の楽しみ方が広がっている。長らく生薬の原料となる根以外は利用されていなかったが、平成24年の薬事法改正で葉の部分が食品として扱えるようになったためだ。セロリに似たさわやかな香りや滋味を感じさせる甘みが料理のアクセントとなり、あめや入浴剤などさまざまな加工品に利用できるように。生薬との二刀流で奈良の特産品として知られつつある。

ピークの30分の1

「奈良って、品質のいい大和当帰の産地ですよね」

奈良県五條市で農園を営む益田吉仁さん(45)は9年前、東日本大震災の被災地支援で知り合った福島県の農業関係者からこう指摘されて、初めて大和当帰を意識した。

「調べたら確かにその通り。それまで知らなかったことが恥ずかしかった」ことから栽培を始め、今では約25アールの畑で約七千株を育てる。

大和当帰はセリ科の多年草。乾燥させた根っこは、血行不良や貧血などへの薬効から女性の健康を支える生薬として知られ、数多くの漢方薬に配合されている。

ただ、近年は安価な中国産に押されるようになった上に、栽培農家の高齢化で生産量が激減していた。奈良県によると、県内生産量は昭和58年のピーク時に4万7120キロあったが、平成23年には30分の1以下の1309キロに減少していた。

県も特産品化に力
奈良県産の天然アユの塩焼きを独特の香りで引き立てる大和当帰葉=同県五條市のレストラン「五條源兵衛」(前川純一郎撮影)
奈良県産の天然アユの塩焼きを独特の香りで引き立てる大和当帰葉=同県五條市のレストラン「五條源兵衛」(前川純一郎撮影)

こうした状況に光を差したのが、24年の薬事法改正だ。医薬的な効能・効果をうたわなければ食品としての販売が可能となった。欧州に自生する同じセリ科セイヨウトウキは「アンジェリカ」と呼ばれ、食材として親しまれていることなどから、日本でも商機到来と歓迎された。

県では大和当帰栽培を復活させるため、官民一体の取り組みをスタート。優良な葉を安定して栽培するための研究も進め、生産量は微増に転じている。県発行の「奈良の『食』カタログ」にも奈良の特産野菜として「大和当帰葉」が加わり、売り出し中だ。

江戸時代に最高の品の産地とされた五條市大深地区のように、夏は冷涼で水はけのよい傾斜地が好まれる。他県の人の一言で栽培を始めた益田さんは同市に隣接する同県下市町の山中に適地を見つけ、試行錯誤を繰り返してきた。

葉の収穫期は6月中旬から10月下旬ごろ。青々として香り高く生命力を感じさせるが、土の養分をかなり吸うため連作すると収穫量が落ちる。在来種ならではの生育のむらもある。

「大和当帰は香りが強いぶん薬効も高いとされるが、根の部分はコスト面で中国産にかなわない。葉の出荷量を増やすことで、大和当帰の栽培の伝統を守っていきたい」。手間暇は掛かるが、益田さんはこう意気込む。

新しい夏の香草

大和当帰の生葉の一般販売は29年にスタートした。食材としての魅力は料理人に広まりつつある。

五條市の野菜レストラン「五條源兵衛」は、益田さんの農園から大和当帰葉を直接仕入れている。オーナーで料理長の中谷暁人さん(40)は「夏の香草として幅広く活用している」と太鼓判を押す。

大和当帰葉をいぶして香りを立たせ、香魚の別名をもつアユをのせた料理は、奈良を存分に楽しむ一品。「たで酢」代わりに、葉とじくをすりおろした「アンジェリカビネガー」もアユの香りを引き立てる。

中谷さんは「ミョウガのようにそうめんに添えたり、ペペロンチーノのオイルに当帰葉を使ったり、家庭でも気軽に楽しんでほしい」と話している。

食べ物以外にも用途広がる

大和当帰の葉を使った商品は続々と生まれている。葉を低温乾燥させたドライハーブを口にすると、苦みと甘みが混在した滋味に続いてスーッと抜けるような爽やかな香りが漂う。独特の風味をもつドライハーブは、料理に使われるほか、ドレッシングやお茶などの加工品を生み出している。

大和当帰のブランド力向上に取り組む一般社団法人「大和ハーブ協会」(奈良県生駒市)の小倉聡代表理事(63)によると、最近よく売れているのが「大和抹茶当帰葉ラテ」。当帰葉の清涼感が、まったりしたラテをすっきりした味わいに変えている。

当帰葉ラテに使われている当帰葉パウダーはきれいな緑色で、ケーキやあめなど菓子の材料としても活躍。一方、葉を煮だすと、葉を茎や枝につなぐ葉柄(ようへい)の色素により鮮やかな赤い液となる。それをシロップにした商品は、ジュースやカクテルにして楽しめる。

「中国菜館 桂花」(生駒市)のオーナーシェフでもある小倉さんは、「大和当帰葉はバジルやパクチーにも劣らない大和のハーブで、刻んでもパウダーでもソースにしてもよい。当帰葉の魅力を知ってもらうことで、国産大和当帰の高品質な漢方の復活につなげたい」と期待している。