ビブリオエッセー

受け止めたい少女の叫び 「れくいえむ」郷静子(文春文庫)

私は昭和47年に生まれた。年表を見ると沖縄返還や日中国交正常化とある。戦後が転機を迎えた年。ところが同じ年、グアム島で一人戦っていた旧日本兵の横井庄一さんが潜伏28年、終戦から27年後に発見され、帰還していた。戦争は終わっていなかったのだ。『れくいえむ』はその年に発表された芥川賞受賞作である。

主人公の大泉節子は戦後、焼け跡の防空壕で一人で死んでゆく。数え17歳の病死だった。動けなくなり、死ぬまでの間、思い出が頭をよぎる。父、母、兄、そして友人たち。大切な人たちを戦争で奪われ、終戦の放送に「どうして無条件降伏などするのですか」と叫んだ軍国少女は、なぜ死ななければならなかったのか。

小説は節子と女学校の親友、丹羽なおみとの交流、手紙のやりとりを軸に話が進んでいく。なおみの父は思想犯として獄中にあり、兄の友人らも反戦主義者だった。一方で節子は国を信じて動員先の工場で作業に励む。二人は第一次大戦を舞台にした小説『チボー家の人々』について何度も感想を語り合う。

友情を引き裂いたのも戦争だ。このエッセーを書いている間も怒りや悲しみ、悔しさが胸に湧き出し、涙があふれてきた。いつの時代も、しわ寄せは弱者にくる。

芥川賞の受賞作を年代順に読み始めてたどり着いた昭和47年。この小説は戦争体験者が描く終戦前後の悲惨さが直接的に響く。戦争が始まればもう反対の声は上げられないのだ。新たな戦争体験者を生み出してはならない。

「戦争のない時代に生れてきたかつた」と書いたなおみの言葉を重く受け止めたい。

堺市堺区 玉城屋蕭子(48)

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