東京パラ 超える

スポーツに「障害」はない

東京パラリンピックのアーチェリーで、五輪選手も使用する「リカーブ」と呼ばれる弓を使う種目に出場する上山友裕(三菱電機提供)
東京パラリンピックのアーチェリーで、五輪選手も使用する「リカーブ」と呼ばれる弓を使う種目に出場する上山友裕(三菱電機提供)

東京パラリンピックが24日に開会する。障害者スポーツの祭典と称されるパラリンピック。出場するアスリートたちの言葉や思いを通じ、スポーツの原点や、東京五輪でもテーマになった多様性や調和とは何かを見つめ直す。

10年ほど前に、アーチェリーの愛好者から「車いすアーチェリーの選手」に変わったころ。上山友裕(33)は、国内大会で圧勝した対戦相手がつぶやいた言葉を今も覚えている。

「車いす選手に負けた」

アーチェリーの大会は、競技団体に登録すれば障害の有無を問わず出場できる。健常者と障害者が同じ場所に並び、同じ距離の的に向け、同じ道具で矢を放ち、競う。つぶやかれた言葉は、車いす選手に対する健常者の視線を物語る。

だが、怒りはなかった。「僕からすると、それは成功。相手は負ければ僕の名前を覚える。車いすの選手という目ではなくなる」

健常者との違いは足が使えるかどうか。踏ん張りもバランスの取り方も「慣れです」と言い切り、健常者の選手に車いすに乗って矢を放ってもらったエピソードを明かす。「『難しい』と言いながらも的に当てる。車いすに乗っていることは言い訳にならない」

車いすでもできる

ゲームセンターとカラオケに通い続けた高校時代。中学の途中まで続けたラグビーの仲間が活躍する姿に触発され、大学でアーチェリーを始めた。卒業後は離れるつもりだったが、就職先にあった同好会の先輩に誘われ、趣味で続けた。

平成22年冬、会社から帰宅するとき走ろうとしたが、足が上がらない。病院に行っても原因不明。足は思うように動かなくなり、車いす生活になった。

現実を自然と受け入れた。「ゆっくりゆっくり進行した感じで、これからどうしようという感じはなかった」と話す。アーチェリーもまた「車いすに乗った選手の存在は大学でも知っていた。『車いすに乗ってもできるわ』という感じでしたね」と振り返る。

「東京」後の世界

車いすアーチェリーの関係者に誘われ、パラの世界選手権にも出場できるほど腕を上げたが、「世界」は厳しかった。アスリートとして生活が保障された海外選手の練習量に、埋めがたい差があった。

「僕たちは仕事をしながら、休み時間を見つけて練習していた。周囲に相談すると、『世界と比べたらだめ』という人たちもいた」

アスリートとして見てくれる所属先企業を探したが、「オリンピックを狙える選手ならほしい」という反応。興味は示してくれても、生活するには厳しい給料だった。

環境は東京パラリンピックの開催決定で大きく変わり、企業側とのマッチングの場も設けられた。「時間とお金が欲しい」。オリンピックアスリートとパラアスリートの落差の中で抱き続けた、積年の思いを吐露した。

三菱電機に入社し、「ほぼ毎日練習できる世界トップクラス」の環境を手にできた。東京パラリンピックは、パラスポーツに対する人々の意識に確かな変化をもたらしたが、「日本って『障害者』と聞くと、一線引く空気があるじゃないですか」とも口にする。

上山友裕=三菱電機、手前=が才覚にほれ、引退を引き留めたという重定智佳=林テレンプ、奥=。東京パラリンピックでともにメダルをねらう(林テレンプ提供)
上山友裕=三菱電機、手前=が才覚にほれ、引退を引き留めたという重定智佳=林テレンプ、奥=。東京パラリンピックでともにメダルをねらう(林テレンプ提供)

健常者とともに車いすに乗れば、同じ目線で景色を見ながら走れる。「パラスポーツは障害者にしかできないのではなく、みんなができるスポーツだということも、アピールする必要がある」

人々を隔てる「障害」なき、パラスポーツの世界。それを体現してきたアーチェリー選手として、パラリンピックに対する思いを語る。「見る人が『オリンピックのアーチェリー選手もすごかったけれど、パラリンピックも同じ距離でやってるやん』『健常者とやったらどこまでやれるんだろう』みたいな感じから、見る目がどんどん変わっていけばいいですね」(渡部圭介)

うえやま・ともひろ

昭和62年、大阪府東大阪市出身。同志社大入学後、体験会をきっかけにアーチェリー部に入る。卒業後の平成22年冬、両下肢機能障害を発症。アーチェリーは続け、24年から競技団体の強化指定選手になった。26年から三菱電機所属。パラリンピック初出場の2016年のリオデジャネイロ大会では、男子リカーブ個人で7位。2019年4月の国際大会では優勝した。

アーチェリー

パラリンピックでは1960年にローマで行われた第1回から続く。一般的な弓「リカーブ」、滑車などの補助用具が付き弱い力でも引ける弓「コンパウンド」、四肢障害がある選手の「W1」の3種目がある。的までの距離は上山友裕が出場するリカーブが五輪と同じ70メートル、ほかは50メートル。競技は今月27日~9月4日、夢の島公園アーチェリー場で、各種目で男女別の個人と男女混合の団体戦が行われる。

東京パラリンピック企画「超える」

留学先で目にした障害をさらけ出せる居心地の良い空間。「日本にはあまりない光景。何が違うんだろう」。自問自答を繰り返した末、障害者スポーツの道に進む。


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