TOKYOまち・ひと物語

〝ダサかわ〟魅力 ホッピービバレッジ社長、石渡美奈さん

ホッピーを入れるホッピー・ビバレッジの石渡美奈社長=5日、東京都港区の本社(内田優作撮影)
ホッピーを入れるホッピー・ビバレッジの石渡美奈社長=5日、東京都港区の本社(内田優作撮影)

すっきりとした飲み口で、ビールや酎ハイとはひと味違った魅力を持つ「ホッピー」。実はルーツが赤坂という〝東京っ子〟だ。商品を送り出すホッピービバレッジ社長の石渡(いしわたり)美奈さん(53)を訪ねると、奥が深いホッピーの世界に触れることができた。(内田優作、写真も)

ホッピーはホップなどを使ってビールの風味を出した焼酎の割り材だ。ラムネ製造を手掛けていた石渡秀(ひで)さんが戦後間もない昭和23年に港区赤坂で生産を開始、安い焼酎もおいしく飲めると人気を呼び、酒場に定着した。現在、赤坂には本社が置かれ、生産は調布市の工場で行われている。

低迷からV字回復

美奈さんは秀さんの孫。3代目に当たるが「一人娘で継がなきゃという意識はあっても、社長なんて想像できなかった」という。立教大卒業後に大手製粉会社に入社、結婚で退社したが「社会に自分の居場所がないのはつまらない」と広告代理店の営業職として再び働きはじめた。

「仕事が好きだ」と感じたところに、当時社長だった父の光一さんがビールの製造免許を得て生産を始めた。「酒造りは男のロマン。おやじさんの夢がかなった」。光一さんが仕事について熱く語る姿を見て、父の元へ帰ろうと決めた。

しかし、思いを打ち明けると、理由も言わず渋った。「同族企業で娘に苦労させたくなかったんでしょう」。1年かけて説得して平成9年に入社。この頃、ホッピーの売れ行きは低迷していた。サワー系飲料の多様化や、商品のマンネリ感が影を落としていた。

入社後、「ここで終わらせたくない」と手を尽くしてホッピーの魅力を発信した。「横組みを縦組みにするだけで生き返る」と昔からのイメージを守りながらラベルのデザインを変え、店頭での売り込みにも力を入れた。特に注力したのはネットの活用だ。ウェブサイトを開設して自身の思いをつづる日記も更新、「古いイメージのあるホッピーの跡取りが女性」という意外性から注目を集めた。レトロブームや健康志向の定着とかみ合い、売れ行きはV字回復を果たした。

〝黄金率〟は5対1

ところで、今や酎ハイ文化は花盛り。量販店に並ぶ缶酎ハイは味が豊富で、有名な酒場とコラボした商品も出てきた。そこで浮かぶのは、なぜホッピーは缶酎ハイを出さないのかという疑問だ。実はここにホッピーの魅力が隠されていた。

同社は「おじさんの飲み物」というイメージを一新しようと、11年に「ホッピーハイ」をシャープな瓶で発売したが、失敗した。あまりにもホッピーのイメージと異なった上、店や家庭の焼酎で割ったものと味が違っていたのだ。この失敗で「毎回焼酎を割るのは面倒に見えて、自分のためにつくるという楽しみがある。表面的に格好よくするのではなく『ダサかわいさ』が大事」と悟った。

新型コロナウイルス禍で飲食店は酒類提供の自粛を迫られ、厳しい状況が続く。「大事なのは日頃の心がけ。焦って新しいことに飛びつくよりも、これまで積み重ねてきたものを大事にしたい」と前を向く。

最後に、おすすめの割り方も教えていただいた。ホッピーと焼酎の割合は5対1が〝黄金率〟。焼酎も冷やしてグラスの底に勢いよくホッピーを注ぐ。3分の2まで入ったところで注ぎ方をやさしくして泡を作ればできあがりだ。社長手製の黒ホッピーをいただくと、キレが違う。社長もいつもこれを? 「私はよく薬草酒で飲んでいます。ウオッカもおいしい」。自由に飲むことができる魅力を、誰よりも楽しんでいた。