今回からしばらく、渋沢栄一が幕末維新期と明治期に出会った幕臣や旧幕府方の人物、また明治新政府仕官時代の上司たちに焦点をあててみたい。まずは令和6年度上期に渋沢と交代する1万円札の「顔」─啓蒙(けいもう)思想家で教育者、慶應義塾を創立した福沢諭吉についてである。
初対面で憮然(ぶぜん)
「余(渋沢)は先生(福沢)に対して、最初のうちは何となく疑念を抱き、また何となくへんてこな関係になっておったことを感ずる。しかしながら、後年に至っては、よく先生の先生たるゆえんも了解さるるにいたり、初めてまれに見る偉人であることを知ったのである。(中略)いまさらながらもう少し先生に親しみ、近づいておけばよかったとも思う」