聞きたい。

笹川陽平さん 『地球を駆ける 世界のハンセン病の現場から』 苦難の歴史 未制圧は1国に

笹川陽平さん
笹川陽平さん

1985年の122カ国から2011年にはブラジル1国を残すのみとなったハンセン病制圧。日本財団の笹川陽平会長は父・良一氏の夢だったこの病気の撲滅と差別撤廃に40年以上取り組んできた。本書は、2001年にWHO(世界保健機関)ハンセン病制圧大使就任後の歩みを中心にまとめた回顧録。900ページ超にわたり、20年で200回以上、約70カ国を巡った情熱と思いを伝えている。

「事故も病気もなく、よくやったなと思う。ただ、私の任務はまだ終わっていない。さらにしっかりやらなくてはと思っています」と感慨新たに語り、本書についても、「50年後、こんな社会があったんだといわれるためにきちんと残しておく必要があると思った。貴重な資料です」。

表紙のロシアのひまわり畑など700枚もの写真や、弱者への思いあふれる筆致に引き込まれる。同時に、長く恐れられ、悲劇が繰り返されてきた病気の苦難と差別の歴史も示す。

『地球を駆ける 世界のハンセン病の現場から』
『地球を駆ける 世界のハンセン病の現場から』

感染者や回復者、各国首脳、世界の要人らに「ハンセン病は治る病気」「薬は世界のどこでも無料で提供」「差別は不当」と3つのメッセージを訴え続けた日々。また国連総会で「ハンセン病差別撤廃決議」が全会一致で採択されるまでの道のりも手に汗握る。

「年月をかけた泥臭いやり方ですが、問題点と答えは現場にある。冷暖房の効いた部屋にいる口舌の徒(と)に問題提起もしたつもり。ここから何かをくみ取って自分流の生き方を模索してくれたらうれしい」

そんなハンセン病との闘いで得た教訓はコロナ禍で「いまこそ活(い)かされなければならない」ともつづる。

「日本は戦後民主主義で権利を主張し、国による公助ばかりを求めてきたが、われわれのDNAにある共助の精神で日本は素晴らしい国に発展する大きな可能性があると思っています」

戦後76年の夏、なお続くハンセン病制圧とともに、国の行く末にも思いをはせる。(工作舎・3080円)

三保谷浩輝

【プロフィル】笹川陽平

ささかわ・ようへい 昭和14年、東京生まれ。明治大卒。平成17年から日本財団会長。令和元年、旭日大綬章を受章。文化功労者、正論大賞なども。著書多数。