スマートシティ計画が“スマート”には進まなかった都市の教訓

理想と現実が食い違った理由

コロンバス市は、目を見張るようなテクノロジーが市内で利用可能になると謳っていたが、現実はそうはいかなかった。こうした食い違いは、テクノロジーを確実な問題解決手段とする考えが変わりつつあることに加えて、ウェブを利用したアプリケーションが現実社会に与えかねない問題に対して新たな警戒心が生まれている現実を示している。

テクノロジーの活用で都市は住みやすくなるというアーバン・オプティミズム(都市生活に対する楽観主義)とも関連するマーケティング用語としての「スマートシティ」は、定義がとても曖昧だった。人々はテクノロジーによって可能になった監視システムに対する慎重な姿勢を強めており、各住戸へのセンサーの設置といった構想は、もはや以前ほど魅力的には思えないのである。

コロンバス市の当局は、それでもスマートシティの計画は失敗したわけではないと言い張っている。それどころか、最終報告書では「成功した」と公言しているほどだ。そんなコロンバス市はいま、このつかみどころのない「スマートシティ」の定義を見直そうとしている。

「センサーの設置数の多さなどを競い合うものではありません。わたしたちはある時点で、スマートシティの意味をちょっと見失ってしまったのだと思います」と、スマートシティ・チャレンジで始まったプロジェクトの継続を担う組織スマート・コロンバスのディレクターのジョーダン・デイヴィスは語る。一部のプロジェクトは今後も継続される予定で、「テクノロジーをどう活用すれば生活の質が向上し、地域格差が解消され、気候変動が緩和され、地域の可能性を実現できるのか」に重点を置くという。

いま明らかになった現実

2015年当時を振り返れば、スマートシティ・チャレンジが技術による問題解決を目標に掲げたことは仕方なかったと言っていい。“未来の世界”は急速に迫りつつあった。コロンバス市などの中規模都市に足がかりとなる資金を提供すれば、官民が団結し、公正さを念頭に未来を見据えた計画を立てられるのではないかと、運輸省はそんな期待を抱いていたのである。

運輸省がコロンバス市を選出した理由のひとつは、プロジェクトへの追加支援を約束していた地元企業が多数あったことに感銘を受けた点だった。当時の運輸長官アンソニー・フォックスは、スマートシティ・チャレンジについて「先進的なツールを用いることで、サービスが行き届いていないコミュニティを中心にあらゆる人々の生活を向上させることが重要です」と語っていた。なお、フォックスは現在はLyftの最高政策責任者(CPO)に就任している。

いまとなっては明らかだが、民間企業が都市の未来を予測することなどできないし、その関心事はベストではなかったのかもしれない。スマート・コロンバスのデイヴィスによると、コロンバス市が選出されると企業からの提案がなだれ込み、対応しきれずに「悩まされることもあった」ようだ。

そうこうするうちに、Uber(とLyft)は自律走行車の自社開発から撤退してしまった。きっかけはもちろん、アリゾナ州で試験走行していたUberの自律走行車が歩行者をはねて死亡させた事故だ。

グーグルと同じアルファベット傘下にあるSidewalk Labsは17年、カナダ・トロントのウォーターフロント地区にセンサーを張り巡らせてデータを収集する未来都市を建設すると発表した。ところがパンデミックが発生し、プライバシー保護を訴える団体や地元住民、開発者が絡んだ泥沼の議論が繰り広げられていた20年に、その計画を断念している。

とはいえ、世界のあちこちではスマートシティ構想が進行している。トヨタ自動車は自律走行車に対応したコミュニティ「Woven City(ウーブン・シティ)」を静岡県内で建設中だ。サイドウォーク・ラボもごく一部の米都市において、不動産開発企業を対象に「イノベイションプラン」を巡るアドバイスをしていると発表した。中国のアリババ(阿里巴巴)も中国国内とマレーシア、マカオで、テクノロジーを用いて交通量の制御などを手がけるプロジェクトを継続中だ。

革命的なアイデアの実験で見えたこと

結局のところ、コロンバス市のスマートシティ革命は、出だしから野心が大きすぎたのかもしれない。「多くの人が大きな期待を抱いていました。おそらく、期待しすぎたのでしょう」と、スマートシティ・チャレンジの立案と評価に携わっていたオハイオ州立大学都市・地域分析センター所長で地理学教授のハーベイ・ミラーは語る。

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