数々の名場面が生まれた東京五輪。多様性と調和を理念とする今大会には、性的マイノリティー(LGBTQ)を公表する選手が過去最多となる180人以上に参加。中でも飛び込み男子で2つのメダルを獲得したトーマス・デーリー(英国)は、競技だけでなく観客席などで編み物をする姿で話題になった。2013年に同性愛者であることを公表した27歳は「どんなに孤独を感じていても一人じゃないし、仲間がいる。私が五輪王者になったように、みんなも何だって成し遂げられる」とメッセージを発信した。
息苦しいほどの緊張感が漂う五輪会場の片隅で、デーリーは黙々と編み物に打ち込んでいた。6日に行われた男子高飛び込み予選。6回の演技の合計点を競う競技で、1回飛ぶごとに水着の上に白いガウンをはおり、プールサイドでせわしなく手を動かし続けた。編んでいたのはぬいぐるみ用のマフラー。「何も考えずに編めるからマフラーは試合中に最適。予選は長いから、常に競技に集中していると気持ちが持たなくて。編み物をすることで精神的なリカバリーができるんだ」。新型コロナウイルスによるロックダウン(都市封鎖)を機に始めたという趣味で上手にスイッチを切り替え、4位で予選を通過。翌日の準決勝も勝ち抜き、決勝で見事銅メダルを獲得した。
大会期間中には白を基調としたカーディガンも作成した。作品をアップするための自身のインスタグラムによると、「東京に着いたら、五輪を思い出せるようなものを作りたいと思っていた」といい、背中に五輪マークと英国国旗、胸元には漢字で「東京」と刺繍(ししゅう)を施した。テレビ中継などで制作中の姿が映し出されると、瞬く間にフォロワーが急増。「移動中や食事後とどこでも編み物キットを持っていっている。僕にとっては日常の一つだから、話題になっていることに驚いているよ」と反響の大きさに戸惑いつつも、表情はうれしそうだった。