呼吸困難でも搬送拒否 都内医師「医療崩壊起きている」

12日に4度目の新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言から1カ月を迎えた東京都。新規感染者は急増し自宅療養者も重症者も増え続ける。医療機関では対応が追いつかず、自宅療養中に症状が悪化して入院が必要な患者が入院できない事態も起きている。医療の最前線の現場からは「救える命さえも失われかねない」と切迫した声が上がる。

「先生、救急車が帰っちゃいました。入院させてもらえないんです」

10日、豊島区西池袋の池袋大谷クリニック。院長の大谷義夫医師は電話口で患者の家族の悲痛な叫びを耳にした。医師歴30年を超えるが、こんな事態は初めてだった。

患者は40代男性で、陽性が判明してから自宅で療養していたところ、血中の酸素濃度「酸素飽和度」が91%まで悪化。一般的に健康な人の酸素飽和度は98%程度で、90%以下になると生命を維持するのに必要な酸素が体に入っていない「呼吸不全」の状態とされる。

すぐさま家族が救急車を呼んだが、駆け付けた隊員から「どこも受け入れられるベッドがない」と搬送を断られた。やむを得ずクリニックで酸素吸入ができる「酸素濃縮器」を男性宅に手配し、症状の推移を見守っているという。

クリニックでは7月下旬から発熱を訴える患者が急増した。この男性を含めて入院が必要な患者は8人いたが、これまでに入院できたのは3人のみ。別の30代男性も自宅療養中に救急隊を呼ぶほど症状が悪化したが、病床の不足を理由に入院を拒否された。

国は「第5波」の感染拡大を受け、東京都を含む感染急増地域での入院対象を「重症患者、中等症患者で酸素投与が必要な者、投与が必要でなくても重症化リスクがある者」とする方針を示している。しかし、現実には「病院はどこも埋まっていて、命が危ない人でも入れない」(大谷医師)のが実情だ。

クリニックが今月2~7日に検査を行った95人のうち陽性者は45人で、陽性率は47・4%とほぼ半数に達した。前月の同時期に比べると約3倍に上昇、年末年始の「第3波」も上回り過去最悪となった。発熱などの症状が出ている人に限れば、陽性率は7割に迫る勢いだという。

大谷医師は「今の東京では呼吸困難になっても入院できず、適切な治療を受けられない医療崩壊が起きている」との認識を示し、「自分の命を守るため、どうか『第1波』並みにステイホームを徹底し、人との接触を減らしてほしい」と訴えた。(竹之内秀介)

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