野球がぜんぶ教えてくれた 田尾安志

チームの「和」が金メダルに導く

選手交代を告げる稲葉篤紀監督。「侍ジャパン」を金メダルに導いた=横浜スタジアム(撮影・松永渉平)
選手交代を告げる稲葉篤紀監督。「侍ジャパン」を金メダルに導いた=横浜スタジアム(撮影・松永渉平)

17日間にわたって熱戦が繰り広げられた東京五輪が閉幕した。いろんな競技でアスリートたちが活躍する姿を、楽しませてもらった。野球人としては、日本代表「侍ジャパン」の金メダル獲得は素晴らしい、大変うれしい出来事。メンバーを率いて勝利に導いた稲葉篤紀監督に「あっぱれ!」と言いたい。

森下暢仁投手(広島)や栗林良吏投手(同)、伊藤大海投手(日本ハム)らプロ1、2年目の選手の貢献が際立っていたが、なによりチームのムードが良かった。経験の浅い選手が物おじすることなく相手に向かえた。準決勝の韓国戦では、八回に山田哲人内野手(ヤクルト)が勝ち越し適時打を放った際、最年長の田中将大投手(楽天)と坂本勇人内野手(巨人)がベンチで後輩たちと一緒になって喜んでいた。チームが一体となっていることを象徴する場面だろう。

五輪のような短期決戦では、監督がいかに選手たちをやる気にさせ、同じ方向に向かわせるかが大事。それさえできれば、残る課題はそう多くないものだ。自らは一歩引いて選手を立てる稲葉監督のスタンスが、功を奏した。

メダルを逃した2008年の北京五輪。チームを率いた星野仙一監督は選手以上に注目され、コーチには同学年の田淵幸一さん、山本浩二さんを呼んで「自分たちも主役」という印象を醸しだしていた。出場した選手には違和感もあったようだ。チームはまとまりを欠き、一つになりきれていないような印象もあった。

稲葉監督は目立ちすぎず、選手をもり立てた。金メダル獲得後、坂本は「監督がすごく緊張しているのを感じていた。喜んでもらえ、良かった」と話した。きっと、選手の兄貴分のような存在だったのだろう。

ペナントレースでは、同じポジションのチームメートはライバルでもある。心の中で「打つな」「失敗しろ」と思うことがあるかもしれない。ある意味、プロの世界とはそうしたものだ。しかし、侍ジャパンは違う。チームに本当の意味での「和」を生み出せるか。それが、リーダーの要件。今回の金メダルは、選手を常に前向きな気持ちで戦わせることができた稲葉監督の功績。見事な戦いぶりだった。(野球評論家)

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