不祥事防止、対外発信…公文書専門家「アーキビスト」人気じわり

アーキビストの専門性を公的に担保する「アーキビスト認証」の制度を始めた国立公文書館(東京都千代田区)
アーキビストの専門性を公的に担保する「アーキビスト認証」の制度を始めた国立公文書館(東京都千代田区)

公文書管理の専門職、アーキビストを養成する大学院が増えている。公文書管理をめぐる不祥事が相次ぐ中、政府が再発防止策の一環に、アーキビストの養成を位置づけていることが背景にあるようだ。近年は対外発信の場面でも、アーキビストの活躍に期待が寄せられているが、一般の認知度は低く、地方自治体における受け皿が少ないなど、不安定な処遇が課題となっている。

キャリアアップに

東京都世田谷区にある昭和女子大学大学院。今年5月、来年度から生活文化研究専攻に開講する「アーキビスト養成プログラム」の説明会がオンラインで開かれた。同大学院には働きながら1年で修士号を取れるコースがあり、全国各地から社会人ら約10人が参加。「専門性を磨いてキャリアアップにつなげたい」といった声が寄せられたといい、「説明の機会を増やし、受験者の増加につなげたい」と担当者は意気込む。

大阪大学大学院も今年度から、文学・法学・経済学の3研究科が連携した「アーキビスト養成・アーカイブズ学研究コース」を開講。島根大学大学院も、人間社会科学研究科にアーカイブズ学分野を開設した。

平成20年に日本で初めてアーキビスト養成を目的とする専攻課程を設置した学習院大学大学院を皮切りに、九州大学大学院や法政大学大学院なども参入しており、育成の裾野が広がりつつある。

消えた年金問題が契機

こうした動きのきっかけとなったのは、19年に表面化した「消えた年金問題」をはじめとする、ずさんな公文書管理の問題だ。

「消えた年金問題」を機に制定された「公文書管理法」により、それまで府省ごとに定めてきた文書の管理方法は、作成から廃棄、保存まで一貫したルールに統一された。

だが23年の同法施行後も、森友学園をめぐる決裁文書改竄(かいざん)など不祥事が相次いでいる。政府は再発防止策の一環として、公文書管理の専門知識をもつ人材確保の方針を明示。政府の求めを受け、国立公文書館がアーキビストの育成に向けた検討を進めてきた。

「まずは、それまであいまいだったアーキビストの職務内容を明確にすることから始めた」と同館担当者。必要とされる知識・技能をまとめた「職務基準書」をもとに、昨年度から、アーキビストとしての専門性を公的に担保する認証制度がスタート。今年1月には、全国各地の公文書館などで働く190人が「認証アーキビスト」として初めて登録された。

対外発信の場でも

公文書管理の適正化に加え、もう一つ、アーキビストの活躍が期待されているのが、対外発信の分野だ。

例えば、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の「世界の記憶」登録をめぐっては、2015年に中国が申請した「南京大虐殺文書」が登録されるなど政治利用の動きが目立っており、識者の中には、登録審査を行う国際諮問委員会に国際的な視野をもった日本人アーキビストが入る必要性を訴える声もある。

また外務省も外交史料の適正な管理や公開、外交交渉への活用を見据えた「外交アーキビスト」の育成に力を入れ始めている。

処遇の安定が課題

国内外の舞台で活躍が求められている一方、現実に目を向けると、人材育成を進める上での課題もある。

今回登録された認証アーキビスト190人の内訳(1月1日現在の住所地)をみると、東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県に104人と偏っており、認証アーキビストが一人もいない県は17にのぼる。そもそも公文書館を持たない地方自治体も少なくない。

アーキビストの求人情報などを発信しているサイト「日本のアーキビスト」の運営者は「アーキビストの採用情報自体少なく、非正規雇用も多いのが現状」と打ち明ける。

公文書館がない地方自治体でも、公文書は作成されており、その管理を担う職員は存在する。ただ、日本では、どんな仕事もこなすゼネラリストの人材が求められる傾向が強く、文書管理の現場では、人事異動に伴い、アーキビストとしての経験が途切れてしまうケースが多い。

「高度な知識と技能を持つ認証アーキビストが現場で専門性を発揮するには、同じ職場で働き続けることへの周囲の理解が必要になるのでは」(同運営者)と指摘する。

国立公文書館の担当者は「国の機関に留まらず、各県に1人以上、認証アーキビストがいることが望ましい。文書管理の重要性を社会に伝えていくためにも、まずは人材育成に力を入れたい」と話している。