レスリング乙黒 父、兄と歩んだ金への道

【東京五輪2020 レスリング】(左から)乙黒圭祐(兄)と金メダルを獲得した乙黒拓斗(弟)=7日、幕張メッセ(納冨康撮影)
【東京五輪2020 レスリング】(左から)乙黒圭祐(兄)と金メダルを獲得した乙黒拓斗(弟)=7日、幕張メッセ(納冨康撮影)

8畳の和室に手作りした道場から、世界の頂点に上り詰めた。7日、レスリング男子フリースタイル65キロ級決勝に臨んだ乙黒(おとぐろ)拓斗(22)が金メダルを獲得。父の正也さん(47)お手製の練習場で兄と練習に明け暮れ、「怪物」と称されるまでになった新世代の雄は、力強く拳を突き上げた。

山梨県笛吹市で生まれ、幼稚園のころ、2歳年上で今大会の同74キロ級代表でもある圭祐(24)とともに競技をスタートした。

小学生になると、下校後すぐにレスリングシューズにはきかえた。向かう先は、正也さんが8畳の和室にマットを敷き詰めて作ったレスリング部屋。駐車場には懸垂用の鉄棒などが置かれ、そこで体を鍛えた。

週末などは「山梨ジュニアレスリングクラブ」で練習に打ち込んだ。小学生のころまで兄弟を指導した深沢秀二さん(46)は、「終了後も居残り、お父さんに怒られて泣きながら反復練習に打ち込んでいた」と振り返る。親子3人、頭の中には、いつもレスリングがあった。

中高は親元を離れて上京。地元の山梨学院大に戻り、2年生だった2018年に出場した世界選手権を日本男子史上最年少の19歳10カ月で制した。「怪物」。周囲がそう呼び始めたのは、このころだ。

試合を離れればアイドルグループ「乃木坂46」が好きな青年。今年4月から兄と同じく自衛隊へ入隊しラッパで起きる日々に「慣れないっすね」と頭をかく。

圭祐は5日の1回戦で敗戦。「兄の分も」と臨んだこの日、残り30秒を切って逆転した。「準備がいかされた」。これまでの月日を思い、いつもはクールな怪物は、顔をくしゃくしゃにして、泣いた。

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