電光石火の完勝劇だった。レスリング女子50キロ級で7日、須崎(すさき)優衣(22)が決勝に臨み、開始2分足らずでテクニカルフォール勝ち。金メダル獲得が続く先輩の戦いに刺激を受け、「楽しみな気持ちが増してエネルギーになった」。レスリング日本代表最年少の新星が、高ぶりをマットで存分に表現し、頂点に立った。
千葉県松戸市出身。小学1年のとき、父親の康弘さん(59)に地元の「松戸ジュニアレスリングクラブ」に連れられ、マットに打ち込み始めた。当時の須崎を知る同クラブの野間良秀監督(65)は、「教えた技をすぐに自分のものにできた」と振り返る。
娘に才能の片鱗(へんりん)を見たからこそ、康弘さんは「レスリングを嫌いになってほしくなかった」。週1回のクラブからの帰りには必ず、近所のすし店に連れて行った。試合に勝てばケーキ。自宅で練習はしない。須崎にとってレスリングはいつも「楽しいもの」だった。
意識が変わったのは小学4年の時。前年に優勝した全国大会で頂点に立てなかったことがきっかけだった。「本気で取り組もう」。練習を週2、3回に増やした。翌年、チャンピオンに返り咲いた。
《オリンピックに行けるように》。作文に夢を書いたのはこのころのことだ。
東京での五輪開催が決まってからは、スマートフォンは、機種変更のたびに色をゴールドにした。「金」を常に意識した。
この日、相手の足を取ると、くるくると身体ごと回転させて加点。一気に勝負を決めた。「あまりにも早く試合が決まったので、びっくりした」。母親の和代さん(50)も目を丸くする圧勝だった。
開会式では、かつて五輪を3連覇した吉田沙保里さん(38)も務めた旗手として、堂々と日の丸を掲げた。「閉会式も笑顔で出られるように頑張ろうと決めていた」。金メダルを大事そうに見つめた。(浅上あゆみ)