スポーツが紡ぐ人の輪 世界で高まる日本人指導者の存在感

東京五輪では日本選手だけでなく、外国選手を支える日本人指導者も存在感を見せている。南の島で長年スポーツの普及に取り組み、選手団長として凱旋(がいせん)を果たした体育教師や、イスラム教の国で女子柔道を指導した女性。スポーツが紡いだ人の輪は、日本がスポーツ文化の伝道を通して海外との関係を深める東京五輪の大事なレガシー(遺産)となる。

グラウンド作りから

ソロモン諸島の選手団長として笑顔を見せる藤山直行さん(左端)と同国選手ら(藤山さん提供)
ソロモン諸島の選手団長として笑顔を見せる藤山直行さん(左端)と同国選手ら(藤山さん提供)

7月23日、東京・国立競技場の開会式。青、緑、黄色の鮮やかなシャツを着た「ソロモン諸島」の選手団の中に、よく日焼けした日本人が溶け込んでいた。

選手団長の藤山直行さん(55)は平成2年、国際協力機構(JICA)の青年海外協力隊の体育教師としてソロモンに派遣された。原っぱを掘り起こしてグラウンドを作るところから活動をスタート。4年の任期後も残り、政府機関などで指導を続けた。

五輪の存在やサッカー以外のスポーツを知らない人も多かったが、今大会は3人がマラソン、競泳、重量挙げに出場。棄権者が多かった女子マラソンでは、順位は最後から2番目ながら完走することができた。

「さまざまなスポーツの存在を伝えたことで、スポーツの機運を盛り上げる一助になれた」。藤山さんは胸を張る。

日本と対戦、万感

元柔道選手の高田知穂さん(29)はサウジアラビアの女子柔道のコーチだ。厳格なイスラム教国のため、女子小学生の体育が4年前に始まったばかり。最初に教えたのはでんぐり返しのやり方だった。

信教上の理由から頭髪を隠すヒジャブ(スカーフ)を外せず、国際大会に出ない選手もいるが、高田さんは「これからの女性社会のためになった」と話す。

母国日本と対戦する指導者もいる。6日夜、サッカー男子3位決定戦で日本を破り銅メダルに輝いたメキシコでコーチをしていたのは西村亮太さん(36)。歓喜する選手の輪の中で万感の涙を流していた。

継続的な努力を

JICAによると、東京五輪に出場した海外11カ国の26選手に対し、海外協力隊員が支援・指導を行っている。パラリンピックを加えると30選手で、8選手だった前回リオデジャネイロ大会の約4倍に増えた。隊員以外の指導者を含めれば数はさらに膨れ上がる。

政府は25年、スポーツ交流を促進する「スポーツ・フォー・トゥモロー」計画を発表。JICAはスポーツ分野の海外協力隊員の派遣数を24年度の81人から倍増させる目標を立て、27年度以降は200人を超えるようになった。

スポーツと国際協力に詳しい大阪大の岡田千(ち)あき准教授(スポーツ科学)は「スポーツ交流の進展は現地における日本のイメージ向上などさまざまな効果が期待できる」と、そのメリットを挙げる。ただ、「一過性の取り組みで終わらせてしまえば、成果はあっという間に風化しかねない」とも指摘。「今大会で得られた人脈や交流をレガシーとして後世に残すためには継続的な努力が必要だ」と訴えている。(竹之内秀介、吉沢智美)

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