勝者のDNAを引き継いだ。レスリング女子53キロ級の向田真優(24)が6日、初出場の五輪で金メダルを獲得した。五輪3連覇を含む16大会連続世界一の〝絶対女王〟、吉田沙保里さん(38)と同じ三重県出身で、階級も同じ。前日に激励のメッセージをもらい挑んだ決戦の舞台で、逆転で勝利をもぎ取った。
「絶対に勝つという気持ちを持ち続けた」。幼少期から憧憬の的だった偉大な先輩に、一歩近づいた。
2008年の北京五輪。アテネ大会に続く2連覇を果たした吉田さんの姿をテレビで見た。このとき、小学5年生。6年生には「私も金メダルを取る」と公言した。
「顔つきが毎回変わっていった」。中学からは親元を離れ、有力選手の集まる東京の「JOCエリートアカデミー」へ。母の啓子さん(51)は、年に3回ほどの帰省のたび、娘の成長を感じた。出身のレスリング教室に顔を出し後輩を指導する姿に、トップ選手としての自覚を見た。
「吉田さんと同じところならば、学びが絶対あるはずだ」と、大学も吉田さんと同じ至学館大(愛知県大府市)へ。16年リオデジャネイロ五輪に吉田さんの練習相手として同行したことは、得難い経験になった。「次は絶対に自分が」。決意をより深めた。
19年に、同大時代から指導を受けていた志土地(しどち)翔大さん(34)と婚約。「一番、客観的に見てくれる」パートナーと、念願の東京にたどり着いた。
試合後、啓子さんは「ずっと目標にしていた金メダル。おめでとう、という気持ち。表彰式で日の丸が揚がるのを見て、涙が出た」と娘をたたえた。
向田は、吉田さんとの比較に「まだ比べものにならない」と首を横に振った。だが、吉田さんは「この階級で金メダルを取ってくれてうれしい。私も涙が出た」と祝福する。「ポスト吉田」の栄冠はこの日、確かに受け継がれた。(橘川玲奈)