【Dr.國井のSDGs考 ~置き去りにしない社会を目指して⑧】WHO初日の仕事は「パワハラ」裁定 前厚労省医務技監・鈴木康裕さん㊤(1/2ページ) - 産経ニュース

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Dr.國井のSDGs考 ~置き去りにしない社会を目指して⑧

WHO初日の仕事は「パワハラ」裁定 前厚労省医務技監・鈴木康裕さん㊤

前厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏
前厚生労働省医務技監の鈴木康裕氏

世界の紛争地域で支援活動に携わり、現在はスイス・ジュネーブにある「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(通称・グローバルファンド、GF)」の戦略・投資・効果局長を務める医師の國井修氏。「No One Left Behind(誰も置き去りにしない)」を人生のテーマに掲げる國井氏による、誰も置き去りにしない社会を目指すヒントを探る8回目の対談が、昨年8月まで厚生労働省初代医務技監として新型コロナウイルス感染症対策などに当たった鈴木康裕・国際医療福祉大学副学長をゲストに行われた。公衆衛生に精通するふたりが、国際保健の現場で活躍するために必要なこと、パンデミック下での国のあり方などについて話し合った(対談はオンラインで実施)。

國井 厚労省では大変なお仕事を務められ、本当にお疲れさまでした。鈴木さんは頭脳明晰(めいせき)で、コミュニケーション能力が高く、性格は温厚と三拍子そろった人。これまで会合などではよくお会いしていましたが、もっとゆっくりお話ししたかったんです。まずは、ADG(事務局長補)を務めたWHO(世界保健機関)時代のお話から。鈴木さんほど若くしてADGになった方はWHOにもなかなかいなかったのでは?

鈴木 38歳のADGは史上もっとも若かったと思います。日本人初の事務局長だった中嶋宏さんの後任にノルウェーのグロ・ハーレム・ブルントラントさんが選ばれたときで、ブルントラントさんを支持した英国や米国は大臣・次官級をWHOに送り込んだんですが、支持しなかった日本は厚労省国際課の一補佐だった私が行くことになって…。日本は課長補佐クラスを送ってきたと有名になりました(笑)。

とはいえ、日本はWHOの資金拠出国の上位でしたから、ADGを出す必要がある。日本政府も何人か推薦したようですが、ハーバード大学公衆衛生大学院の後輩でもあった私が、ブルントラントさんに一本釣りされたわけです。

國井 WHO時代、特に印象に残っていることは何ですか?

鈴木 日本では課長補佐だった私に、1万2千人の部下ができたことにまず驚きました。初日は普通ならあいさつ回りで終わるのに、いきなりパワハラの裁定をするように言われて。双方から言い分を聞いて判断するのですが、びっくりしましたね(笑)。

お金や人を集めたり、方向性を示したり、国や財団と交渉したりしないといけないので、典型的な日本の官僚には大変な仕事だと思います。でも、私は厚労省に入省したときも誰も最後までいると思っていなかったはぐれものなので、耐えらましたし、やりがいも感じられました。

國井 日本人が国際機関で働く上で大きな壁になるのは、コミュニケーションだと思います。鈴木さんは英語では苦労されませんでしたか? 多くの日本人職員が実践的な英語でのコミュニケーション能力が十分でないため、苦労しています。克服方法があれば、若い人に教えてあげてください。

鈴木 日本人は英語をうまく完璧に話そうとし過ぎだと思います。私の知っているネーティブではない人たちの英語は、相当なまっているし、文法も自由闊達(かったつ)です。でも、大事なのは話の「中身」と「論法」。発音はカタカナ英語か発音しやすい英国風の発音で十分。アメリカ英語の巻き舌をまねようとしたり、間違いをおかすことを恐れるあまり黙ってしまうことの方が間違っていると思います。

國井 日本人は知識を詰め込んで正解を答える教育を受けてきました。間違ったことを言ってはいけない、また上司の前ではあまり自分の意見を言ってはいけないと考えて、それが習慣になっている人も多い。

ところが、国際社会では正解のないものに挑むことが多いですし、それらを前に進めるために、自分の意見や考えをきちんと示さなければなりません。意見の違う相手を説得する能力や、多数の意見を聞いてまとめる調整能力も必要になることも多い。日本人同士であればお互い空気を読みながら進めることもありますが、国際社会ではもともと違った空気の中で生きてきた人たちと一緒に働くので、言語化しないと理解してもらえない、理解もできない。また、正解がない課題に対して、みんなで意見を言い合い、議論し合いながら自分たちの答えを作っていく。日本人は相当努力して、これらの壁を乗り越えようと頑張っています。そんな中、どう生き抜いたんですか?

鈴木 絶対やろうと思っていたのは、皆がやりたくない仕事をやることです。例えば、お金集めの交渉。大義を語るのは簡単ですが、相手を説得してお金をいただくのはなかなか簡単ではない。だから、そこのところだけはやろうと。むしろプログラムを回していくのは実際に携わっているディレクターやコーディネータの方が詳しい。そこに細かく口出しするより、お金をとってきたり、相手を説得したりすることに重点を置こうと考えていました。

國井 ADGは何人いたんですか?