今大会で初めての五輪競技となったスポーツクライミングの女子複合決勝で6日、野中生萌(みほう、24)が銀メダル、野口啓代(あきよ、32)が銅メダルを獲得した。目に涙を浮かべた2人は、金メダルだったスロベニアのガルンブレト(22)と3人で抱き合い、お互いの健闘をたたえ合った。
オレンジ色の髪を束ね、耳と首元にアクセサリーが光る野中。パワフルで大胆に登っていくスタイルは唯一無二の存在感を放つ。地元・東京での五輪は右手首と右膝に痛みを抱えながらの挑戦だった。
野中が練習に通うボルダリングジムのスタッフ、渡辺海人(かいと)さん(24)は、野中に五輪前、「脚と手は会場にささげるくらいの気持ちで頑張って」とメッセージを送った。野中からの返信は「もちろんそのつもりでがんばる」。
その言葉通り、執念で登り詰めた表彰台。会場関係者からの大きな拍手をあび、喜びをかみしめた。
その野中が背中を追ってきたのが、競技を牽引してきた野口だ。茨城県龍ケ崎市の実家に父が建てた手製の壁で練習し、競技と向き合ってきた。
中学、高校から全国、世界で着実に競技成績を挙げてきた野口。東洋大付属牛久高校(牛久市)で1年のときに担任を務めた菅野徳彦さん(58)は「おっとりしておとなしく、控えめな子」と話す。
あまり目立つことが好きではなかったという野口だが、菅野さんが校舎の外壁をつたう雨どいを指して「これも登れるの?」と冗談ぽく尋ねると、「登れますよ」とあっさり。当時からアスリートとしてのプライドや自信を持っていた。
それから15年余り。世界のトップに挑み続け、集大成と位置づけ五輪に臨んだ。「一緒に頑張ってきた生萌と表彰台に乗れてすごくうれしい」。〝戦友〟とともに上がった表彰台で、この日一番の笑顔を見せた。(橋本昌宗、王美慧、前原彩希)