8位入賞の一山、「魔法の言葉」に支えられ前へ

女子マラソンに出場し、8位でゴールした一山麻緒=7日午前8時30分、札幌市中央区(代表撮影)
女子マラソンに出場し、8位でゴールした一山麻緒=7日午前8時30分、札幌市中央区(代表撮影)

代表の座を最後に射止めたシンデレラガールが、たどりついた大舞台で力を見せた。女子マラソンの一山麻緒(24)は7日、8位でゴールし、日本勢では2004年アテネ五輪以来17年ぶりとなる入賞を果たした。オリンピックを目指そう―。無名だった陸上少女を支え、強くしたのは、恩師のそんな「魔法の言葉」だった。

午前6時開始となったレース。一山はスタートから先頭集団に食らいつき、終盤で離されるも粘り強く走り抜いた。両手を広げてゴールに飛び込むと、「(練習で)これ以上頑張れないというくらい走ってきた。勝てなかったですけど、悔いはないです」。すがすがしい表情を見せた。

鹿児島県出水(いずみ)市出身。小学5年の夏、「運動会のかけっこで1番になりたい」と陸上を始めた。水泳インストラクターだった母、優子さん(52)は3歳から打ち込む水泳を続けさせるつもりだったが、娘の熱意に「根負けした」。

出水中央高校で指導した黒田安名(やすな)さん(66)は、中学時代の一山の走りに一目ぼれしたという。高校の3年間は県内の大会でも勝てなかったが、黒田さんは一山に何度も声を掛けた。「麻緒はこんなもんじゃない」「オリンピックを目指そう」

荒唐無稽とは思わなかった。何事にも妥協を許さない一山の姿勢は、必ず結実すると強く信じたからだ。優子さんは振り返る。「もともと自分に自信がなかったのに、ほめ上手の黒田先生がその気にさせた」。まさに魔法の言葉だった。

東京五輪に出場して恩返しがしたい―。高校を卒業した一山はこう誓い、実業団の強豪ワコール(京都市)の門をたたいた。

一時はけがが続き、どん底を味わった。「あれだけ走るのが好きな子が、電話越しに『走りたくない』と泣いていた」(優子さん)。そんな時、前向きな言葉を投げかけ、寄り添ったのは、黒田さんだった。《麻緒は目標を立てれば必ず達成しているよ》

鹿児島を離れても、恩師は温かく一山を見守り続けた。その後も折に触れてはエールを送り、一山も結果で応えてきた。

東京五輪出場に向け、ラストチャンスだった昨年3月の名古屋ウィメンズマラソンの直前には《歴史に残る走りをしよう》。崖っぷちのレースで一山は日本歴代4位のタイムをたたき出し、五輪への切符をつかんだ。

そして運命の東京五輪。レースの3日前、黒田さんはいつものようにメッセージを送った。《麻緒なら大丈夫》。その言葉を背負い、一山は北の大地で粘りの走りを見せた。

この日、まな弟子の躍動を見守った黒田さんは、かつて2人で信じた五輪出場という夢の実現をかみしめた。「入賞も果たして感無量です」。そう話し、目を細めた。(西山瑞穂)

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