8日閉会する東京五輪で、五輪史上初めて行われたサーフィン競技の会場となったのは、人口約1万2千人の千葉県一宮町だった。無観客の開催で経済効果は限定的だったが、競技誘致を契機に、すでに主要駅の利便性が向上するなどの効果があった。会場跡地の一部は公園として整備される一方、大部分は保安林に戻されるという。周辺では「道の駅」の設置構想も浮上しており、新たな歴史をレガシー(遺産)として町の〝飛躍〟に活用できるかが問われそうだ。
東京五輪サーフィンでは日本代表男女がそれぞれメダルを獲得したほか、町出身の大原洋人も健闘。多くの人に、競技としてのサーフィンの魅力を印象づけた。
競技会場となった釣ケ崎海岸は、以前から国内有数のサーフスポットとして知られ、国内外から多くのサーファーが訪れてきた。五輪初の競技開催で〝聖地〟となり、新型コロナウイルス感染の収束後には、海外からもこれまで以上の集客が期待される。
昨年7月、従来は西口のみだったJR上総一ノ宮駅に東口がつくられ、駅の東に位置する海岸側に踏切を渡らずに行けるようになった。競技誘致決定後、県からの補助金もあって実現したもので、馬淵昌也町長は「移住者へのアンケートでも、移住の理由に外房線の利便性を挙げる人は多く、東口の完成は町にとって大きなことだ」と指摘する。
今回、サーフィンの競技会場が設営されたのは、主に保安林に指定されている県有地。町企画課によると、会場跡地のうち、約1ヘクタールは県立の自然公園として整備され、来年4月に開放される予定だ。公園には、町がトイレやシャワールーム、多目的室などを設置するという。
会場跡地の大部分は、撤去作業の後、再び保安林となる。県森林課によると、9月から会場跡地の約8ヘクタールに苗木約6万5千本の植栽を行うという。育つまでには数十年かかるとみられる。同課の担当者は「九十九里海岸全体で保安林の整備を進めており、防災機能を維持するために保安林は必要」と説明する。
地元の商工関係者からは「駐車場や芝生などをそのまま残してほしい」など、大会設備の活用を望む声もあった。周辺には飲食店やサーフショップが立ち並ぶが、駐車スペースやサーフィンをしない人たちに向けた施設が不足しているという指摘があり、町としては課題も残っている。
馬淵町長は7日、産経新聞の取材に「町の魅力を来訪者へ伝えるために、会場近くに一時避難所を兼ねた道の駅を作れないか検討している。県とも連携し、レガシーを生かせるようにしたい」と語った。(長橋和之)