ギターは他のメンバーに任せ、キーボードに専念したが、念願のプロとなり、充実した日々だった。しかしバンドは計4枚のシングルを発表するも、ヒットが出ず、約2年で解散。米田さんは家業のお好み焼き店に戻った。しかし、ロックギターの神は彼に新たな使命を与えるのだった…。
演奏動画 一夜で再生4万回超
プロ活動を断念し、家業のお好み焼き店を切り盛りする米田喜一さん。「一度は念願のプロになった」ので、音楽の道に未練はなかった。そんな日々が、あと数カ月で10年になろうとしていたある日、不思議な男性客が店にやってきた。
「何か、ずーっと僕の顔をにらみ続けているんです。気持ち悪くなって」
しかし、話しかけられて分かった。中学時代の同級生だった。酔っぱらいながら、開口一番、彼はこう言い放った。
「何でギターやめてん。もったいない。どんな形でも、ギターを弾き続けんとアカンやないか!」
その言葉に突き動かされた米田さんは「もう一度、エレキギターと真剣に向き合う」ことにした。憧れのエディ・ヴァン・ヘイレンの愛器で知られる改造ギター(フランケン・ギター)のレプリカやギターアンプなどをネットオークションで購入。再びエレキを猛練習する日々が始まった。
そして、プロ活動の断念からちょうど10年、42歳の時、満を持してユーチューブにチャンネルを開設した。店の開店から30周年、年齢が42歳だったので、アカウント名は「SATSUMA3042」。
最初に投稿したのは、ヴァン・ヘイレンのデビューアルバム「炎の導火線」(1978年)収録のギター曲「暗闇の爆撃(原題=イラプション)」の完全コピー演奏だった。指板上の弦を指でたたく「タッピング」や、ひとつの音を超高速で弾き続ける「ハミングバードピッキング」といった特殊奏法が満載で、飛び切りの難曲で知られる。
しかし「音程を変えずに演奏速度を半分に落とせるコンピューターソフトなどを使い、演奏法を細部まで徹底的に研究」するなどし、演奏もサウンドも見事に完全コピーする驚異の演奏に。
その反響はすさまじかった。「翌朝、再生回数を思わず二度見しましたよ。4万回を超えていたんです…」。アクセス数はぐんぐん増え、コメント欄には英、米、独、アルゼンチンなど海外からも称賛の声が。今では180万アクセスを超えている。
その後の展開を見れば、ロックギターの神が同級生に姿を変え、米田さんにロックギターの伝道師になるよう、叱(しっ)咤(た)激励したとしか思えない。
ヴァン・ヘイレンをはじめ、続々投稿されるマイケル・シェンカーやイングヴェイ・マルムスティーン、ランディ・ローズら80年代に大活躍したスーパー・ギタリストの超人的な速弾きを含む完全コピーを投稿。チャンネル登録者は12万人を突破し、ロックギター好きが集まる月1回の「ギターサロン」も来年で開始から10年に。
エディの一周忌にあたる10月6日には、令和元年の暮れに続き、在阪FM局などが大阪市内で企画するヴァン・ヘイレンのトリビュート(カバー)バンドのライブでエディに成り切る。
「ロックギタリストの最高峰だった彼の業績や演奏技術を多くの人々に伝えたい」。米田さんはスーパーギタリストの技を広め続ける。(聞き手 岡田敏一)
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ライブは、10月6日午後7時から梅田トラッド(大阪市)で。チケットは前売り5千円、当日5500円(共に1ドリンク別)。問い合わせはウドー音楽事務所(06・6341・4506)
【プロフィル】よねだ・きいち 昭和41年、大阪市生まれ。42歳でユーチューバー(アカウント名=SATSUMA3042)としてデビュー。チャンネル登録者数約13万人を記録するスターに。海外からも注目されている。ライブ活動のほか、自身が手掛けたロックギター教則DVDも話題に。