陸上の男子20キロ競歩で、池田向希(こうき)(23)が銀メダルをつかみ取った。1時間21分14秒。頂点には、わずか9秒届かなかった。それでも、ゴール後は息を弾ませながら笑顔を見せた。山西利和(25)も銅メダルを獲得。日の丸を背にまとった2人は健闘をたたえ合った。
「後半にスピードを残すことができた」。レースを終えた池田はこう振り返った。レース開始から1時間17分18秒。ラスト1周を告げる鐘が鳴り響いた。イタリアのスタノ(29)との一騎打ち。苦しい表情で歯を食いしばり、最後まで追いすがった。
浜松市出身。長距離選手として伸び悩んでいた浜松日体高2年の頃、競歩に転向した。「なんでも自分でやれる子だった」。陸上部顧問の北條尚(たかし)さん(34)はこう振り返る。
専門の指導者はいなかった。池田は他校の指導者にも話を聞いて回った。長距離選手らが走る横で、1人黙々と歩き続けた。
高校2年の暮れ、北條さんは池田に進路を尋ねた。「大学でも競歩を続けたい」。迷いはなかった。
卒業後も、北條さんにはレースのたびに結果を報告するメールが届いた。「頑張ります」。五輪への切符をつかんだ昨年3月は、五輪にかける意気込みが記されていた。自宅でレースを見守った北條さんは「高校時代、無名の選手だった。それが銀メダルを取るまでになったのか」と感慨深げに語った。込み上げるものがあったといい、「よく頑張ったな」とたたえた。
山西は「個人としても、チームとしても金を取れなかったのは残念」と悔しさをにじませた。中学時代は地区予選で敗退する長距離選手だったが、高1で恩師の船越康平さん(47)のすすめで競歩を始めた。京都大工学部に進んでも、学業と両立しながら、世界の舞台へと駆け上がった。
この日も先頭集団で存在感を示し、積極的にレースを引っ張った。船越さんは「今日のレースを見た子供たちに『自分でもできる』と勇気を与えてくれたと思う」とねぎらった。(松崎翼、宇山友明、根本和哉)