政府が新型コロナウイルスの患者が急増する地域で重症者や重症リスクの高い患者以外を自宅療養とする方針を打ち出したことへの波紋が広がっている。そこで懸念されるのは、感染拡大の「第5波」で増加している中等症患者。「中等」という言葉の印象や、一部は自宅療養になるのではないかという見方から、「それほどひどくない」と思われるかもしれないが、「世間がイメージする症状と実際の病状にはギャップがある」と専門家。コロナの中等症は肺炎の所見を意味し、人生で最も苦しい経験になるという。
《軽症や中等症といってもピンとこない方もいるので、スライドを作ってみました》。米国で内科医として勤務する安川康介氏がツイッターに投稿した図解が話題だ。軽症や中等症に対する世間と医療従事者との認識の差を示す内容。例えば中等症の場合、一般的には「息苦しさが出そう」との印象があるが、医師側からすれば「多くの人にとって人生で一番苦しい」ものになるという。
関西医科大付属病院の宮下修行(なおゆき)診療教授(呼吸器・感染症内科)も「若い人を中心にこういった認識のずれがあるのは事実だ」と指摘する。
厚生労働省の資料によると、そもそも新型コロナでの「中等症」とは、肺炎が生じているケースが該当する。宮下氏によると、一般的な風邪やインフルエンザで肺炎に至るのはかなり重いケースに相当し、通常であれば入院は避けられない。「コロナの『中等症』は、コロナの中では中程度ということ。肺炎を起こしている時点で病状は十分に重い」(宮下氏)。
世間とのギャップが生じる理由について、宮下氏はコロナ特有の「二面性」を挙げる。コロナにかかった後、どのような症状が出たのかは同年代でも大きな差がある。「熱が高く、ものすごく苦しかった」という声があれば、「無症状で何ともなかった」との体験談もある-というものだ。
宮下氏は「健康な若い人は『大丈夫だった』という話に目が行きがち」とみており、コロナの症状を軽視する流れにつながってしまうという。また、「コロナはインフルや風邪のようなもの」との意見には、「そうなるのはワクチン接種が進み、特効薬ができてからだ」とクギを刺す。
政府の入院基準の転換について宮下氏は「病床が不足する中での苦肉の策」と理解を示した上で「『中等症でも自宅療養できる』という意味ではない」と指摘。「中等症は入院不要」という誤ったメッセージにつながることを懸念している。(花輪理徳)