鋭くも、たくましい声が静寂を貫いた。東京大会で初めて競技に採用された空手で、銀メダルを獲得した女子形の清水希容(きよう)(27)。決勝で迫真の演武を披露、敗れた後は相手をたたえ、気丈に振舞った。それでも「ここまで来るのに、すごくしんどかった。勝ちたかった」。最後は涙をこらえきれなかった。
「マッチ棒みたいだな」。東大阪大敬愛高(大阪府東大阪市)で指導した山田ゆかりさん(60)にとって、清水の第一印象はそんなものだった。
それほど、きゃしゃだった。スピードはあるが、勢い任せで粗削り。力強く、かつ繊細な現在の演技とは程遠かった。結果は出ず、苦しい時期を過ごした。
しかし、他の部員が休んでも1人で黙々と練習を重ね、全国大会での優勝も視野に入るまでになった。
仮想の敵に対する攻防を組み合わせた演武。披露するのは102種類の形の中から1つを選び、技の正確性や力強さを競う。
心の強さも磨き上げてきた。かつては「大会で一度失敗すると、立て直せなかった」(山田さん)。高2のインターハイ出場をかけた一戦。勝てるはずの試合でまさかの敗退を喫した。
「一度の失敗でぐらつく程度では優勝できない。最後まで堂々と演技しろ」
山田さんにそう言われ、悔しさをかみしめた。心身を鍛え、高校卒業後は世界選手権を2度制し、全日本選手権では7連覇した。
大きな大会で優勝を決めてなお、試合後の会場で自身の動きを黙々と顧みていた。日本代表のチームメートだった小林実希さん(31)は「手放しで喜んでしまう場面でも、希容は結果にとらわれず、理想を追求できる」と話した。
母校で試合を見守った山田さんは「世界の舞台で本当に素晴らしい演技をみせてくれた」とたたえた。
決勝の演武を終え、最初に口にしたのは感謝の言葉だった。全力を出し切った武道家は、最後まで美しかった。(土屋宏剛)